その後……





「寄る所があるっていうからどこかと思えば、廃れた公園かよ」

 勝手についてきたくせに、そいつは小さく悪態をついた。

「人っ子一人いないじゃないか」

 辺りを見渡しながら、彼、成宮は近くにあったベンチへと腰を降ろす。俺はそれに苦笑しながら、懐かしさを感じていた。
 俺はあの日を境に、定時制の高校へ通いながら、一人暮らしを始めた。そのためにバイトもしている。俺にしては、かなりの成長だと思う。
 悪態をついてベンチに座り込んだ彼こそが、そのバイト仲間だ。どういうわけか、俺にちょっかいを出してきて、気がつけば友人と呼べる仲になっていた。
 名前を、成宮 翔護(ナルミヤ ショウゴ)という。

「こんなところに何の用があるんだよ?」

 成宮が俺を見上げる。それに応えるように、持っていた花束を彼が座っている隣のベンチに添えた。

「何だ? 地味な公園を少しでも華やかにしよう計画か?」

 俺の行動がわからない、といった表情を浮かべ、成宮は花束を見つめる。

「今日は、誕生日なんだ」
「そのベンチがか。すげぇな。お前は作られたもの一つ一つの誕生日にこうやって花をプレゼントして回ってるわけか」

 わざとらしく、挑発するような口調で成宮は俺を笑った。俺は思い切り奴を睨む。

「……悪かったよ。誰の誕生日なんだ?」

 参りました、という風に両手を挙げ、成宮は素直に尋ねてくる。
 俺は奴から視線を外すと、ベンチを見つめた。自然と頬が緩む。
 今日は、彼女……揺生の誕生日だ。偶然出会った揺鈴さんから、それを聞いた。

「おいおい、そりゃないだろ」

 隣で成宮が息を呑むのが聞こえた。彼の呟きに、俺は視線を奴に戻す。何が、と尋ねるように首を傾げた。

「お前、今の自分の顔鏡で見てみろよ。女の誕生日だろ?」

 ズバリ言い当てられて、俺はギクリとする。なぜわかったのか。やっぱりプレゼントが花束だからだろうか?

「自覚ないのな。お前、今すげぇいい顔してた。愛惜しむような、大切な人を見ているような。やっぱそんな顔もできるんだな」

 ……顔にでていたということか。指摘されると、やけに恥ずかしい。
 俺は顔が熱くなるのを感じた。

「ま、俺は、お前のそういうところが気にいってんだけどな」

 にんまり笑って、成宮は立ち上がった。花束を見つめる。

「あんた倖せもんだな。光輝(コウキ)に愛されて」

 まるで本人に告げるように言うと、成宮は踵を返した。手をふる。

「それじゃぁ、邪魔者の俺は退散するよ。あとは二人で仲睦まじく続きをどうぞ」

 背を向けたまま手を振りながら、成宮は公園を後にした。俺はそれを見送りながら、ふと笑みを零す。
 理解しているのかいないのか。どちらにしても、成宮の気遣いが素直に嬉しかった。
 俺は笑みを浮かべたまま、再び視線を花束へ落とす。

「誕生日、おめでとう。揺生」

 呟く。それと同時に、風が乱れた。


―――――ありがとう……


 吹きぬけた風と共に、そう言った彼女の声が聞こえた気がした。



2005/05/29

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