×

[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。






2/愉快な仲間たち





「シア、おっはぁー!」
 朝から元気にあたしの家のドアを開け放ち、さも当たり前のように侵入してくる奴が1名。
 その見慣れた綺麗な顔を見て、あたしは小さく溜息をつく。
「朝から元気ねぇ」
 あたしの上に子犬のように乗っかって、あたしを起こした奴にでこピンを喰らわせた。
「あったぼぅよ。朝飯朝飯〜!」
 奴、ナオはあたしが眠っていたベッドから飛び下りると、あたしの横にきて朝食の催促をする。
 なぜ朝っぱらから彼女があたしの部屋にいるのかというと、至って簡単なことだった。
 つまり、あたしの部屋とナオの部屋が偶然にも隣同士だったのだ。彼女もまた、県外から今の大学を受験して、一人暮らしをしている身だった。
 入学式当日にナオと出会って、帰り際。どこまでも同じ方向で同じように道を進んで行くにつれ、あたし達はそれぞれにまさか、という思いを内に秘め始めた。
 そして、見事それは的中。家が隣同士。その事実に、あたし達は数分大笑いをした。
 こんな偶然ってあるだろうか。ナオが言った運命かもしれない発言を、不覚にも信じてもいいと思ってしまった。
 それ以来、奴はあたしの家に入り浸るようになったのだ。料理の全くできない彼女は、あたしが料理ができることをいいことに、食事の準備をそのキレイな顔でねだってくるわけ。
 そして、今に至る、と。
「なぁなぁ。早く早くぅ! お腹すいたぁ」
「ぁー……ハイハイ。その前に先に着替えさせて」
「んじゃアタシ荷物準備してとってくる」
 言うと、ナオは自分の部屋に戻った。これもいつものことだった。あたしが着替える時になると、決まって自宅へ戻るのだ。
 こっちに来る時についでに持ってくりゃぁいいのに。そう思うのだが、まぁ、別にあたしの問題じゃないし、と思っていつも突っ込まないでいた。
 あたしは素早く着替えを済ませる。
 それからマイエプロンを装着し、キッチンに立った。1DKのアパートだから、キッチンといっても眼と鼻の距離しかないのだが。
 食材を冷蔵庫から取り出し、お昼の弁当の分もふまえておかずを作っていく。ちなみにこの弁当も二人分、きっちり作らされていた。 まぁ、食費は全て向こうが持ってくれるというので、作る分には文句はないが。
 ナオは風呂と寝る以外は殆どあたしの部屋で過ごしている。あたしも、彼女の存在があることを気にしなくなってきていた。
 会って数週間というのに、かなり気の許しあった仲といえよう。
 大体あたしは、自分の空間を侵されるのを嫌うタイプなのだが、彼女がいることには最初からあんまり違和感がなかった。
 それこそ、空気みたいな、自然なことのように思えた。
「ぅぃー……今日は荷物が重たい」
 すでにノックもチャイムも鳴らさずに入ってくることに抵抗を感じなくなったあたしは、戻ってきたナオに苦笑して答える。
「今日の古文、辞書二冊だもんね」
 あたしとナオは同じ学科ということもあって、大半が同じ講義を受講していた。
「うん。少しは考えて欲しいよなぁ。講義がある日は毎回辞書二冊……考えられん」
 想像してゾッとしたのか、ナオは身震いして見せる。その顔が、なんとも面白かった。
「ぅぉーくそめんどくせぇ」
 投げやりにカバンを放り投げる。
 あ、ちなみに彼女の男言葉は、上のお兄さん達の受け売りなんだとか。気になって尋ねたところ、ナオには彼女を入れて四人兄弟がいるらしく、ナオは一番下の末っ子だそうだ。上に兄が二人、姉が一人いるんだそうな。 まぁ、末っ子というだけでたくましく育ってきたのだろうし、上に二人も兄がいるのなら男っぽく育っても別に不思議ではなかろう。でもなぁ……その顔で男言葉っていうのが、何かもったいないというか。
「おっ! 今日の弁当のおかず、ミートボール入ってるじゃん!」
 油断している隙に、ナオは余ったミートボールに手を突けながら、あたしの後ろから覗きこんで嬉しそうに叫んだ。
 ついでにいうと、ナオの身長は170以上。長身美人ってやつだ。そんで、あたしは170弱。あたしも結構背は高い方だった。
「子ども……」
 その喜びようがまたなんとも幼い子どものようで、あたしはボソリとこぼした。
「んなっ! ミートボールをなめたらダメ! あんなにうまいもん他にないよ!」
 いや、別にミートボールにケチをつけたわけじゃなくてね?
 あたしはあんたをからかったんだけど……ってまぁ、本人気づいてないならいいか。
「ってかアタシは子どもじゃないぃぃ!!」
「遅ッ!」
 数テンポ遅れての突っ込み。遅い。気づくの遅すぎる。
「ぅぬぅ……してやられたぁ」
 別に何もしてないし。あんたが気づかなかっただけだし。
 あたしは軽く溜息を落として、弁当と朝食作りの続きにとりかかった。



 +++++



「シーちゃん、黒っち! おっはよぉ〜ん」
 キャンパス内でバッタリと出会ったその人物は、あたし達の姿を認めると、朝もはよからハイテンションで抱きついてきた。
 ちなみにシーちゃんはあたしの愛称で、黒っちがナオの愛称ならしい。
「おはよう。おまぁさんも朝から元気だねぇ」
 あたしは誰かさんを横目で見ながら、しみじみ答える。当の本人、その視線にすら気づいてないですけど。
「グッドなモーニング! ちなっチャン」
「黒っち今日も素敵にハイだね。お互いバリバリ元気に行きましょー!」
 バリバリせんでぇえ。
「オー!!」
 お前も答えんでえぇ。
 暴走を止めるこっちの身にもなってくれ。
 ちなみにこのハイテンション娘は、我らが女子大学の入試を主席でパスされた天才少女、壱原 千夏(イチハラ チナツ)嬢である。
 見た目行動からして、悪いが秀才に見えない彼女は、小中高と名門学校に通い、常に主席をキープされていたほどの頭脳の持ち主だ。
 彼女ならもっとレベルの高い大学でも余裕で大丈夫そうなのに、何でうちの大学を志望したかは今のところ不明である。
 まぁ、どちらにしても尊敬するよ。……あのハチャメチャな性格さえなければ、だけど。
「シーちゃん、どしたぁ? くらぁい顔なんかしちゃってぇ」
 溜息をついたのを、千夏は見逃さなかった。面白そうにあたしの顔を覗きこんで、目の前でブンブンと手を振っている。
「溜息つくと倖せが逃げてくよぉ? ほぉら、笑って笑って」
 ニッコリ、とスマイルを作って見せる千夏。ちくしょう。かわいいなぁ、コイツ。おじさんが飴あげようか? って、オヤジ入ってるぞ。しかも性別変わってるし……イカンイカン。
 あたしは誤魔化しもふまえて、素直に彼女に笑い返した。それを見ると、満足そうに頷く。
「女の子は笑顔がイチバン!」
 おまぁさんの笑顔が一番だ。
 ハッ、いかん、またオヤジ気質が。
 だめだなぁ。どうも綺麗なものや可愛いものをみると、ついでちゃうんだよね。
「そういえばさぁ、今日の古文ありえなくない? あんな重たい辞書二冊も持ってこいなんてぇ……か弱い女の子にさせることじゃないよねぇ」
 どうやら千夏もナオ同様、辞書二冊の重さには納得いかないらしい。げんなりという表現が一番当てはまる面持ちでカバンを肩にかけなおしていた。
「ちなっチャンもやっぱそう思う? だよねぇ、これはないよなぁ」
「うんうん。カバンの肩紐が肩に食い込んで血液の流れが悪くなって肩こりとかになってくれちゃったりしたらどうやって責任取ってくれるのかねぇ?」
 すげぇ。今のワンブレスで言い切ったで、この子。あたしなら絶対途中で咬むぞ。すげぇ芸当だ。
 などと感心してる場合ではなくて。
「若い娘がそんなババくさいこというんじゃありません」
 千夏の頭を軽く叩いて、あたしは突っ込んだ。しかもいうことが現実味を帯びていてちょっと怖いよ。
「ぶぅ。だって実際わたしちょっと肩こりの兆しがあらわれ始めてるんだよぉ……シクシク」
 シクシクって自分で言ってどうする。可愛いから許すけどさ。
「お互いもう歳だしなぁ。歳はとりたくないよなぁ」
「ホントねぇ」
 おいこら、ちょっと待て。そこのお若いお嬢さんがた二人。
 そんなことで共感しあうな!
「あんたら……世間の若い男どもが今の光景を目の当たりにしたら、相当ショック受けるわよ?」
「「え?」」
 二人息ぴったりで首を傾げる。
 あぁ、もう。可愛いなぁこん畜生。って、流されるな! あたし。
「いい。気にしないで。さぁ、重たい辞書を持ってきた苦労を生かすためにも、授業に向かいましょうか。お嬢さん方や」
 こんなこと言ってるあたしが、実は一番ババくさいのかもしれなかった。



 +++++



 女子大。
 そこは女の園。
 イイ。実にイイ。
 女の子っていいなぁ。ついでに若いってイイなぁ。
 学食でランチをしている時分。
 窓際を陣取って、あたしの隣にナオ。向かい側に千夏という陣形を作って座っている。あたしは窓の外から見える、グラウンドからちょうど帰ってきた女学生を眺めていた。
 今の季節、選択で体育をとっている彼女達のスタイルは、やはりジャージ姿が多いが、それでも中には半パンという格好を貫いている生徒もいた。 そういう子に限って、足が細かったりするんだなぁ、これがまた。
「シーちゃぁん? さっきからどこ見てるの?」
 そんな女の子ウォッチングをしているあたしの目の前で、不思議そうに顔を覗き込んでくる千夏ちゃん。
 あたしは間近に彼女の顔があることに気づいて、思わず小さな悲鳴を上げてしまった。
「び、びっくりした……」
「もぉ、人の顔見て悲鳴上げないでよね」
 プンプン、という効果音が似合いそうな感じで拗ねる千夏。プンプンといえば某女優を思い出すが、あんな風に大げさな感じではちなみにない。
「ゴメンゴメン」
「で? 何見てたん?」
 拗ねた千夏の代わりに、ナオがミートボールを美味しそうに口に放り込みながら尋ねた。
「いやぁ、ちょっと女の子ウォッチングを、ね」
 目線はさっきの女の子の足に向けたまま、あたしはニヤつきを抑えつつ答えた。
「「女の子ウォッチングぅ??」」
 拗ねることも忘れて、千夏は声を上げる。みごとナオとタイミングばっちりでハモッた。
「そ。女の子の体見るの好きなんだよねぇ、あたし」
「お前は変態か?」
「誰が変態じゃ、誰がッ!」
 聞き捨てならんことをいう奴だな。
「じゃぁ、百合だ」
「だから、あたしは変態でもなきゃ同性愛者でもないっつぅの!」
 女の子見るの好きだし、同性愛に偏見があるわけじゃないけど、あたし自身が同性に対して恋愛感情を持ったことはない。
「それ趣味なの?」
 千夏が興味津々で聞いてくる。えーっと、引かれるどころか見事に喰い付いてくれちゃったんですけど。
「まぁ、そんなとこ。だって女の子って可愛いじゃん? 見てるだけでも飽きない。自分の好みの身体にであうとそれだけで興奮しちゃう」
「やっぱ変態だ」
「やかましいっ!」
 あたしは容赦なくナオに一発喰らわしてやった。もちろん、綺麗なお顔は避けて、鳩尾に一発ね。
「ぐはぅっ」
 思いっきり咽てるし。
「あーでもそれわかるなぁ。わたし、いい形したお尻に出会うと男でも女でも触りたくなっちゃう」
 や、それもどうかと思うけどね。
「でしょ? あたしはやっぱ足よ。あの曲線美。足首にかけてのラインなんかもう、最高」
「解る解るぅ! 夏なんか絶好の見せ場だよね。細い人はうらやましいくらい綺麗だもんねぇ」
「そうなのよ! どうやったらそんな綺麗で長い足が手にはいるのかって、もぉ、たまんない」
 変な話題で盛り上がる。
 でも、こういうのちょっと共感できるのって嬉しいかもしれない。
「会話がやばいぞ、二人とも」
「バカね。こんな会話を男がしてたらいやらしいけど、女だから堂々とできるんじゃない」
「いわば女の特権って奴だよね」
 そうそう。ただ他人の身体について意見を述べているだけじゃないのさ。あんまり大きい声じゃ話せないけどね。
「女って怖いね、ニイちゃん」
 会話に混じれないナオは、現実逃避を決め込んだらしい。ワケわかんない台詞を吐いて、弁当を食べるのに集中している。
 あたし達はそんなナオを横に、女の子の生足でとことん盛り上がっていた。



BACK   TOP   NEXT