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1/女装男、語る





 シンッと静まり返る部屋。
 時計の秒針の音だけが響く。
 どれくらいのことそうしていたのか。
「あ、あのさ……」
 唐突に奴が控えめな声であたしに声をかけた。
 大変なものを目撃してから、それの言いワケを聞こうととりあえず奴の部屋に居座わっているのだが、やっと口を割る気になったらしい。
「……何よ」
 トゲのある口調で問い返すと、奴はまたシュンッと項垂れた。
 ことの発端はそう。あたしが見た、ナオの女装事実発覚からだった。奴は実は男! 正真正銘男で、わざわざ女装してまで女子大に通っていたいわば変態野郎である。
 その事実を知った時、あたしは危うく意識を失いかけた。
 別に女装を全否定するわけじゃないけど。でもそれは理由にもよると思う!
 しかも、今まであたしの部屋で四六時中ゴロゴロしてたわけじゃない?
 あらためて振り返ると、考えられない。
 っていうかそもそも男が女子大受けられたこと自体間違ってる気がするんだけど。戸籍上無理なんじゃ……って、今はそんなことどうでもいい。
「それで? 結局その女装とやらの理由は何なのよ」
 あたしには知る権利がある。
 騙されていたのだし、被害者なんだから。
「う……」
「この期に及んでまさかはぐらかすつもりじゃないでしょうねぇ? 言っとくけど、理由を吐くまでは寝かさないわよ」
「何かそれ、台詞だけ聞くと危ないな」
「はぐらかさないで答えなさい! あたしを、あたし達を騙してまで女装してた理由は何? 簡単には言えないほど重要なことなワケ?」
 理由によっちゃ、あたしは思いっきり奴を軽蔑するつもりでいる。
「重要なようなそうでないような……」
 そんなあたしの目の前で、ナオは曖昧な表現をし、言いにくそうに言葉をにごらせた。
 じれったいなぁ、もう!
「はやく言いなさいよ。あたし今そんな気長に待ってられるほど大人にはなれない。いい加減腸煮えくり返りそうなんですけど?」
 ちょぃと脅しを含ませながら、低い声で言ってやる。すると、ナオはビクリと肩を震わせ、ますます縮こまってしまった。
「はぁ。いいからさっさといいワケぐらいしなさいよ」
「その、なんてぇか……俺一人の事情じゃないんだよな。話すと長くなるというか……」
 やけにまじめ腐った顔をして答えるナオ。
「だから?」
 問うと、ナオは開き直ったのか、ニヒっと笑みを浮かべた。
「しばらく保留にしてくんない?」
「はぁ?」
「理由は後々話すからさ。今はとりあえずしばらく保留ってことで」
 頼むよ、と、ナオはあたしを拝んだ。多分今きっと、あたしの顔はかなり引きつっていることだろう。女装してたの隠してた上に、その理由まで話さないとくれば、怒りに顔が引きつりもするわ。
「……あんた、あたしの寛大さに感謝しなさいよ」
 あたしはダークな声をだし、不敵な笑みを浮かべて奴に言い放つ。これ以上問い詰めても堂々巡りだろう。向こうには話す気が全くないんだから!
 すっごいムカつくけど、あたしは寛大だからこの場は引いてやるわよっ。まぁ、ゆっくりじわじわと聞き出すのも悪くないし。
「まじ!? さっすがシア! サンキュー」
「それはそうと」
 あたしは奴の台詞の語尾に続けるように鋭い声を上げた。
「あんたの正体知った以上、今までどおりには振舞えないっていうのは解るわよね?」
「それは……」
 仮にも男だ。今までのような生活は送れない。理由はともかく、こういうことはちゃんとしておかないと。
「ナオが女装してるとかいうのは一切他言無用することは約束してあげるわ。けどね、今までどおりあたしの部屋に入り浸るのは無理なの、わかるでしょ?」
「えっ」
 ナオは弾かれたように顔を上げ、あたしを凝視する。
 えっ、てなんだよ、えって。
「なんでだよ!?」
 うーわーぁ、こいつバカ。普通解るだろう。
「なんでじゃないわよ! 年頃の男が意味もなく女の部屋に入り浸るな!! つき合ってるわけでもないのに!」
「だったら意味があれば入り浸ってもいいのか!? てかそれならつき合えばいいじゃん!」
「阿呆! あんたがあたしの部屋にいるのに今まで意味有りなことがあった!? ただダラダラと時を過ごしてただけじゃ……」
 って、今さり気にすんごいこと言わなかった?
 つき合えばいいとか何とかって……つき合う!?
「あんた何言ってンの!!? 頭おかしいんじゃない!?」
「さり気にひでぇこと言ってんじゃねぇよ! お前がつき合ってないって言うから、だったらつき合えばいいっていっただけじゃないか!!」
「だからそれがおかしいっていってんのよ! あんた買い物に行くような付き合いじゃないのよ!? 意味解っていってんの!?」
「お前俺をバカにしてんだろ? それくらいわかってるっての!」
 俺。
 こいつホントに男なんだ。
「わかってるなら、何でそんなこというのよ」
 意味が解らない。そもそもそこに至る発想がわからない。付き合うっていうのは、お互いの気持ちが同一のものでないと、つまり好き同士でないとさぁ!
 ナオのこと好きだけど、それは異性としてじゃなく、友達としてだ。だって、いままで奴のこと女だと思ってたんだから。
「好きだからに決まってるじゃん」
 きっぱりと答える、ナオ。なるほどねぇ。好きだから、って……
「はぁ!? 何が好きなわけ!?」
「お前しかいないだろ!」
 突っ込まれる。
 っていうか何で!? 何でそういうことになるわけ!?
「意味わかんない! 全然理解できないッ。何であたしなんかのことが好きなわけ!? あんた絶対おかしいわよ」
「お前言ってて虚しくないか?」
 う……
 しかも何気に立場逆になってる。完全にあたしが突っ込まれてるわ。
「だってホントのことじゃない。どこがいいのかさっぱりだわ」
「好きになるのに理由がいるのかよ?」
 う……
「大体まだ出会って日も浅いし」
「好きになるのに時間は関係ないだろ?」
「……」
 コイツ……こういう時だけまともな返答しやがって。
 そんなこといわれたら、どうすればいいの。
「別に返事なんか期待してねぇよ。ゆっくり俺のこと好きになってくれれば」
 おい。あんたをフルっていう選択肢はないわけ?
「あたしがあんたを好きになるのは強制なわけ?」
「おう」
「どこにそんな自信があるのよ」
「気に入ったもんは絶対手に入れる主義だから」
 全然答えになってない。てか何その自己中心的考え! 腹立つわぁー。
「あんたなんか絶っっ対! 好きになんかならないわよッ!!」
 あたしは叫んで、そのまま勢いで奴の部屋を出た。呼びとめる声が聞こえたけど、無視!
「なんなのよっ、もう!」
 腹立つったらないわ!
 人をからかうのもいい加減にしてよねっ。
 ったく……
「厭んなっちゃう……」
 玄関の扉に背を預け、そのままズルズルとその場にしゃがみ込み、あたしは小さく溜息を落とした。



 +++++



 っていうかありえないでしょ?
 この状況はおかしいでしょ? 明からに不自然でしょ?
「……ってなにやっとんのじゃあぁぁッ、この女装男―――――っっッ!」
「うおっ!?」
 ありえない。マジでありえない。
 ナオが男だったと判明して、しかも今まで通りの生活はできないって言ったにもかかわらず、さも何もなかったかのようにあたしの部屋に上がりこんで、寝てるあたしを普通に起こすか!?
 眼が覚めたら奴の顔がドアップよ?
 心臓止まるかと思ったわ!
「いってぇ……何だよチクショー。せっかく起こしてやったのに」
 状況を把握して、あたしは奴が乗った布団を思いっきり引っ張ってやったのだ。奴はぶつけたのか、頭をさすりながら涙眼であたしを恨めしそうに見やる。
 そんな顔したってもう騙されん。貴様が男だということを認知したあたしに、もうその儚げな少女の瞳は通用しない。
「誰もたのんどらんわ! 朝っぱらから襲う気か!!」
 油断も隙もあったもんじゃない。
「さすがに無理やりは……」
 否定しているが、顔はあきらかに失敗した、という風な表情をしている。
 こいつ!!
「あんま調子こいてっとあんたの正体大学にバラすわよ」
 脅しを含んだ声で言うと、奴はうっと怯む。あたしはコイツの弱みを完全に握ってるんだ。立場的にはあたしのが上でしょ。これを活用しない手はない。
「きたねぇ! 昨日と言ってること違うじゃんか!」
「何とでもいえば? あたしゃ男には容赦しない」
 悪女でも何とでも思えばいいわよ。男に興味なんざサラサラない。
「くそぉ、男とばれたら新展開もあるかと思ったが、期待した俺がバカだったのか」
「何よ、新展開って。男だとわかった時点であたしがナオに惚れるとでも思ってたわけ?」
「うん」
 即答ですか。
 だからさ、その自信はどっからくるわけ? 自信過剰にもほどがあるでしょ。
「あーあ……ショック」
 ガクッと肩を落とすナオ。それはこっちの台詞だっての。
 確かに顔はいいですよ。きれいな顔だし、男でも女でもいける容姿なわけだし。でもあたしは女の子(を観賞するの)が好きなんだよぉ!
 くそぅ、キレイな男ほどむかつくもんはないわよ。あたしは恨めしそうにナオを睨んだ。
 それにしても、格好でだいぶ印象違うものなのねぇ。
 奴は正体がばれたためか、今日はヅラをつけてない。ゆえにショートだ。んでもって男物のTシャツとジーンズというラフな格好をしている。
 そういう格好をされると、どっからどう見ても男に見えてしまう。印象付けって怖い。
「どうでもいいけどさ。学校行く時はヅラ、忘れないようにしなさいよ?」
「何々? 心配してくれてんの?」
「あんたが何かヘマするとこっちに多大な迷惑がかかるからね」
 ただでさえ、学校ではこいつの目立ちすぎる容姿のせいでかなり有名になっているというのに。
 そんな人物が実は男だったとばれてみろ。後が怖いわよ。しかも絶対あたしにも被害がくる。
「うっわぁ……切ねぇ」
「あんたの心情なんか知らないわよ。それより出てってくれない? 着替えられない」
 そう言った自分の台詞に、あたしはハッとする。
 そうか、今まであたしが着替えようとすると荷物をとりにいくと証して部屋をでていっていたのは、奴が男だったからだ。
 年頃の男が女の着替えを間近で直視できるもではない。ましてやナオのような状況だと、特に。
「あ、じゃぁ、荷物とってくる」
 言いながら、奴はいつものように部屋に帰ろうと立ち上がった。っていうか! 今までどおりの生活はできないってあれだけ言ったのに、朝食あたしん家で食べる気!?
「戻ってくるのかよ!」
 叫んではみたものの、時すでに遅し。奴の姿は扉の向こう側へ颯爽と消えていた。



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