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3/放課後デート





 それは帰り際、奴の一言から始まった。
「デートしたい」
 はぁ? 何? とうとう血迷ったか、この女装男。
 あたしは思いっきり口を開けて呆けたまま、ナオを見上げた。
 ちなみに千夏嬢は用事ができたとかで授業が終了し次第速攻お帰りになられました。なので、珍しく帰りが二人だけになってしまったのだった。
「何バカなこと言ってンの? 病院行く?」
「バカじゃないし、頭もおかしくない!」
「じゃぁ、基本的に存在自体が間違ってるんだな」
「俺の全てを否定するな!」
 するなと言われてもなぁ。事実おかしいでしょ、あんたの存在はさ。っていうのは心の中にとどめておくが。
「だいたいデートって何よ? あんたとあたしはつきあってもないし、そんなことする理由もなきゃ義理もない」
「うわー……シア、酷い」
「事実を言ってるだけじゃない」
「……なんかさ、俺が男って分かってから態度冷たくね? 気のせい?」
「気のせいじゃないんじゃない? 実際冷たくしてるし」
「おい! サラリと肯定するなよ! 傷つくだろ!?」
 知らないわよ、そんなこたぁ。
「無視されないだけマシだと思いなさいよ」
「なんだよ。騙してたことまだ怒ってるのか?」
 ええ、えぇ。それもありますよ。おおいにねぇ。女だと思っていた奴が実は男だったなんて事実知って拒絶しない方がどうかしてるわよ。
「一生許してやんない」
「ゴメンってば。謝るからさぁ、デートしよ?」
 全然っ、反省の色見えませんけど? しかもどうしてそこにつながるのか果てしなく謎なんだけど。
「嫌だっつってんでしょ」
「いいじゃん〜。アイス奢るし。ダッツのチョコチップ」
 う……
 ダッツのチョコチップってめちゃくちゃうまくてすんごい好き。そうか、あたしの好きなもの、コイツ知り尽くしてるんだった。
 くそぉ、卑怯な! あたしが美味しいものには眼がないの知ってて、計算してやがる!
「ぬぅ……」
 ダメだ、食べ物につられるな!
「シェスカのブルーベリータルトもつけるぞ」
 ぐはっ!
 シェスカのケーキ! 超人気の洋菓子屋、シェスカ。あそこのブルーベリータルトは絶品の人気限定商品。夕方の五時から六時までの間に販売される一日二百個限定という、時間制限までついたいわゆる幻のケーキである。
 ただいま四時半。今から行けば買える! ……かも。
「行く! シェスカのケーキ!」
 負けた。完敗。だってしょうがないよ、アンタ。あそこのケーキ、美味しさに比例して値段も結構なもんで、なかなか手が出せないのだ。奢りというなら、このチャンスを逃す手はない。
「決まり。んじゃ早速行こうか」
 あたしの返事を聞いて、満足そうにナオはにんまり笑った。



 +++++



「あんれぇ? シアちゃんとナオじゃないか。久しブリ〜」
 店に入ると、何とウエイターの格好を見事着こなした見覚えのある人物が出迎えてくれた。
 ここシェスカは、ケーキをその場で食べることもできるいわば喫茶のような作りになっていた。持ち帰りかその場で食べるかによって店内の奥行きになるか否かを決めるのである。
「啓先輩!?」
「啓ちゃん!」
 あたし達は同時に声を張り上げてしまった。他のお客がちらりとこちらに視線を向ける。あたしは慌てて口元を抑えた。
「なんで啓ちゃんがここに? っていうかその格好は?」
 あたしの代わりに、ナオが尋ねる。
 先輩の命令により、あたし達は先輩のことを名前で呼ばせてもらっている。先輩達もその方が気を使わないでいいし、仲がいい感じがするからとのことだ。
 ホント、アットホームな感じでした、この間のミーティング。
 ちなみにナオは啓先輩のことを恐れ多くも啓ちゃんと呼んでバリバリタメ語使ってる。
「アタシここでバイトしてんだよ。この格好は店長に無理やり。こっちのが似合うとかいわれてさ」
 言いながら苦笑を浮かべる啓先輩。店長、分かる人だ。
 確かに先輩には他の女性店員がきているフリフリスカートの制服よりもこっちのウエイター風な格好の方が様になってる。
 てぇか生足いかすッスなぁ。ここの店長と絶対気が合うわ、あたし! って、また変態モード入ってるし……
「で? 今日は何をお買い求めで?」
 自分の思考にちょっぴし切なくなっていた私の横で、啓先輩は急に店員の顔をして、ニコリと微笑んだ。
 ぐはぅ。この笑顔はやっぱくるわ。切なさなど吹き飛んでしまったわぃ。
「ブルーベリータルト買いにきたんすけど、まだ残ってる?」
 ナオが催促するように店の奥を覗きこんで啓先輩に尋ねた。
「お、あれ買いにきたの。美味いだろ、あれ」
「絶品ですよ!」
 あたしは思わず主張した。
 すると「だよね」と啓先輩は同意しながら、ケーキが並べられているウインドウの前まで案内してくれる。
「運がいいね。残り二個。お買い上げありがとうございます。ここで食べる? それともお持ち帰り?」
 言いながら、先輩は残り二つあったタルトをお盆に載せた。
 どうでもいいけど、いやよくないけど、先輩の「お持ち帰り」発言ってなんかドキドキするわぁ。想像しただけで……笑いが止まんない。
「あ、持ち帰りで」
 ニヤつきを必死に抑える私の代わりに、ナオが答える。あたしはその会話で現実世界に戻ることができた。
 それにしても。美味しそうだぁ、タルト。家に帰ってからゆっくり味わって食べる。楽しみぃ。
「了解。んじゃ包装頼む、梢」
 啓先輩はニコリと営業スマイルを浮かべ、レジ付近にいた女性店員にそのお盆を手渡した。
 ン? 待って、啓先輩今「梢」って言った?
 あたしは咄嗟に女性店員を見やる。そこには可愛いお姫様が!
「梢先輩!?」
 間違いない。
 フリルたっぷりの制服がぴったり似合う、あの輝かんばかりのお姫様は、梢先輩しかいない!
「こんにちわ、二人共」
 ニコリ、と柔らかい笑みを向けて手を振る。ぐおぅ、ノックアウト。可愛すぎるよ、お姫様!
「先輩もここでバイトを?」
「ええ。啓がやるっていうから、私も一緒に」
 そうですかそうですか。やっぱ仲いいですね、先輩二人は。
 いつも二人でワンセットって感じですもんねぇ。
「最初アタシがバイトするの反対してたくせになぁ」
 わざと皮肉気に言って見せる啓先輩に、梢先輩は相変わらず微笑を絶やすことなく答えた。
「だって、バイトなんかして啓に変なムシがついたらいやだもの。私の啓が他の男にベタベタ触られたりするの考えるだけで頭にきちゃう」
 ぅぉーう。サラリと何だが爆弾発言しますねぇ、お姫様や。
 何だかとっても聞いてはいけないことを聞いてしまったかのようですよ?
「男にベタベタされてんのはお前だろ。アタシに言い寄ってくるのはもっぱら女の子だよ」
 そうでしょうね。どっからどう見ても啓先輩男にしか見えないもん。凛々しい王子様って感じで。しかもまた格好が格好なだけに、フォローのしようがないわ。
「そうなのよねぇ。男除けに制服を代えさせるところまではできたのに。今度は女の子に取り巻かれて……」
 はぁ、と溜息を落としながらがっくりと肩を落とす梢先輩。
 すみません。その続き、非常に気になるんでけど? 女の子に取り巻かれて何なのですか?!
「アタシがこの格好になったのはやっぱお前の策略か!」
 しかし、梢先輩の危なげ発言よりも啓先輩にはそっちの方が痛手だったらしい。「どうりで」と盛大に肩を落とす。
「あら、気づいてなかったの?」
「薄々は感じてたけど……やっぱそうなのか。くそぉ、アタシはフリフリ着たかったんだよ!」
 啓先輩は、女性従業員の一人を指差して、まるで駄々をこねる子どものように喚いた。
 っていうかごめんなさい、先輩。先輩にはどうやってもあの格好は似合いません。むしろ逆に浮きます。
 男があからさまに女装してるって思うくらい。周囲から変な眼で見られますよ、きっと。
「諦めろよー。啓ちゃんにはあの格好は似合わないって」
 そしてナオがとどめ発言。やっぱり余計な一言ことを。
 このバカ野郎っっ!!
「そうよ、啓。人には向き不向きがあるのよ」
 先輩まで!? っていうか何だかそれ使い片間違ってるような気がしますけど! あぁ、でもこの際そんなことはどうでもいいか。
「……どうせアタシゃ似合いませんよぉ」
 店内で思いっきりイジケはじめた啓先輩。
 全くどいつもコイツも!
 収集のつかなくなった状況の中、あたしはフォローする気にもなれず、ただ黙って落胆の溜息を落とした。



 +++++



「ねぇ! はやくっ、早く食べようよ!」
 あの後、何とか先輩のイジケを立ち直らせて、ケーキを購入して帰ってくると、あたしは待ちきれずにケーキの入った箱を開けて中身を覗く。
 美味しそうなタルトが二つ、甘い香りを漂わせながら並んでいる。
「おいしそぉ〜」
「ホント幸せそうな顔するよな、シアって」
「む。どうせ単純ですよ」
 結局食べ物に釣られちゃったし。
「何でそう嫌味にとるかな。褒めてんのに」
「褒めてるように聞こえない」
「はいはい。俺が悪ぅございました」
 全然悪気があるように聞こえないんですけど? あたしは突っ込んでやろうかと思ったが、話が長くなるとケーキが食べられないからあえて流した。
 ナオが持ってきたお皿に、ケーキをおく。
「それでわっ」
 フォークを構えて、あたしはケーキを一口。パクリ。
「ん〜っ! お〜いしぃ〜!」
 倖せぇ〜。
 この生地といい、カスタードの丁度いい甘さといい、ブルベーリーの程よい酸味といい、全てがバランスよく口の中で広がる。あぁ、生きててよかったぁ。
「ん。何?」
 完璧自分の世界に入っていたあたしは、ナオがまだタルトに手をつけてないのに気づいて、奴を見上げる。なぜか微笑を浮かべながらあたしを見ていたナオは、目が合うとニッコリと笑った。
 何? 何かあたしの顔についてるとか?
「いや、あんまり幸せそうに食うから……かわいいなぁと思ってさ」
「んぐっ!!」
 突然ナオが変なこというから、たった今飲み込もうと思っていたタルトで咽てしまった。何とか飲み込んで必死に息を吸う。
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫じゃないわよっ! な、何言ってんの!?」
「へ? だから可愛いなって」
 そう言うことじゃなくてっ! っていうか、ストレートすぎる!
「お、お世辞言ったって何にもでないんだからねっ」
 からかうのにも程があるわよっ。
「何で? 本心だけど」
「なっ……」
 あたしは自分の顔が熱くなっていくのを感じた。
 何でこんなドキドキしてんのよ、あたし! ナオが変なこと言うから!
「あ、そ、そうだっ。こ、紅茶でも入れようかっ! あ、でも紅茶切れてるんだった! か、買ってくるから、ちょっと待ってて!」
 動揺しすぎだ、あたし!
 耐え切れなくなって、あたしは咄嗟にナオから距離をおくように立ち上がった。そのまま逃げるように玄関を出る。
 自分でも途中から何を言ってるのか解んなくなってたから、ナオにはもっと意味が解らなかったと思う。
「おい? シアっ!?」
 案の定、呼びとめる声が聞こえたけど、今にも火を噴きそうな顔と心臓のせいで振り返れなかった。あたしは顔を隠すようにして、紅茶を買いにスーパーまで駆ける。
 早鐘のように脈打つ心臓を鎮めるために……



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