×

[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。






1/好き? 嫌い?





 蒼い空。白い雲。
 燦々と降り注ぐ温かい日差し。
 あははぁ。小鳥のさえずりが聞こえるわぁ。
 あぁ、平和だなぁ。
――――――――――――………
 ……ではなくて!
「ぅわぁーん! シーちゃんならどうする!? どうしたらいいと思う!?」
 先ほどから泣いたり照れたりがっかりしたり喚いたり。
 とにかく喜怒哀楽が激しくまわりの見えていない娘が約一名。あたしの周りで喚いていた。
 誰かってぇと、ズバリ千夏だ。
「シーちゃん? 聞いてる?」
「はいはい。聞いてますよー」
 悪いが聞いちゃいない。
 今の状況を説明すると長くなるのだが、つまり完結に話すと、あたしは千夏の相談に無理やりのせられているのだった。
 別に相談されるのが嫌だとかじゃなくて、むしろ頼りにされるのは嬉しいことなのだが、今回ばかりはその内容がいただけなかった。
「やっぱり告白した方がいいのかなぁ?」
 千夏は想い人である人物を思い出しているのだろう、うっすらと頬を赤く染めている。
 そうなのだ。その相談の内容というのが、恋愛もの。
 この間のナオの発言以来、どうもこの手の話になると思い出してしまってダメなのだ。
 講義も終わっていざ帰ろうとしたところ、いきなり千夏に拉致……じゃない、捕まって今に至るのだが、先ほどからいってる内容が支離滅裂でよく解らない。あたしなりにまとめると以下のようになる。
 まず、千夏ちゃんがよく行くコンビ二に、最近はじめたと思われるバイト生がいる。そんでもって、何度かコンビ二に通ってるうちにそのバイトの彼に心惹かれ……気がつくと千夏ちゃんはバッチり彼に恋してしまいました。
 さりげなくさぐりを入れてみたところ、今現在付き合っている彼女はいないらしく、千夏ちゃんはただいまその彼に告るか告らないかで迷っているらしい。
 そんであたしに相談にのってくれ、と。うむ。なかなか的を獲たまとめかたではないか。
「シーちゃんならこういう場合、どうする!? やっぱり告白する!?」
 いきなり顔が近くに迫ったものだから、あたしは驚いて上半身を退けた。
「千夏、近い」
「あ、ゴメン……つい」
 気づいて、千夏は身体を後ろへ引く。
「それで、さっきの質問。答えてよぅ」
「えー? あたし?」
「うんうん。どうする?」
 突然そんなこと聞かれても……
「アタシならスパッと告るな」
 どっから沸いてでたのか。いきなりあたしの肩に手を置いて、ナオはにんまり笑って答えた。その顔は明らかに捕まえた、という表情を浮かべている。
「な、ナオ!」
 あたしは驚いて、思わず悲鳴を上げそうになった。
 一気に体温が上昇する。だ、ダメだ。変に意識しちゃってまともに顔が見れない。あれ以来、何かとナオを避けていたのだ。
 今日だって一人でそそくさと帰ろうとしたら、千夏に捕まってしまって。そしたらナオに発見されてしまって……あたしは気持ちを落ち着かせるために深呼吸した。
「黒っち〜! 勇気あるねぇ!」
 しかし奴のいきなりの登場を不思議に思うこともなく、二人は会話に花を咲かせていく。完璧あたしアウトオブ眼中ですかぃ。まぁ、その方が今はありがたいけど。
「もちあたぼーよ。アタシゃグダグダするの好きじゃないし。もしダメでも絶対諦めないしな」
「カッコイイ〜! さすが黒っち」
 その諦めの悪さにこっちはかなり迷惑してますけどね。しかもあんなにストレートな発言はやめてほしい。
「ちなっチャンもばしばしアピールした方がいいって! 男ってのはそういうのは嬉しいもんなんだよ」
 男のアンタがいうと何だか説得力あるよね。でもそれはあくまで男だったらでさ、あたしはかなり迷惑してんだよ? あんたのそのアピールとやらにさぁ。そういうところに何で本人気づかないのかねぇ……
「やっぱりそういうものかなぁ?」
 しかしながら不安げな千夏。
「だぁいじょうぶ!! ちなっチャンは可愛いし、言い寄られて悪い気になる男はいないって! 自信もて、ちなっチャン!」
 確かに千夏は可愛い。小柄で見た目儚げで可憐で、女の子! って感じの女の子だし。性格もいいし。
 ちょっと暴走するのがたまにキズだけどさ。でもそりゃ愛嬌ってことで。
 あたしが男だったらこっちが放っておかないタイプの子だよなぁ。案外そのバイト生も気があったりするんじゃないの? そう考えるとなんかムカつくわ。
「そっか、そうだよね! ただ黙って見てるだけじゃダメだよね!」
「そうそう。お互い頑張ろうぜ、ちなっチャン!」
「うん、頑張りましょー!」
 何でかナオまで意気込んで一緒に気合を入れている。っていうか、あんたは頑張らなくていいからさ。
 あたしは遣る瀬無くなってつい溜息をつく。
「……って、ン? あれ??」
 しかしそこで、千夏が何かおかしくない? とでもいうような疑問を口にした。
「一緒にって、黒っち好きな人いるんだ!?」
 一気に眼の色が輝く千夏。
「誰々? どんな人?」
 ちょっとまって、千夏! その質問はアカンでしょ!
 あたしは内心焦った。ナオのことだから、素直に言ってしまいそうだ。何せあいつは馬鹿だから。
「カッコイイ? 優しいの? 背は高い??」
 質問攻めを仕掛ける千夏。そんな中、当の本人は嬉しそうにニヤニヤしている。今の状況、結構嬉しいらしい。楽しんでやがる、あいつ。
「アタシが好きな人は、すんごいアタシに冷たい」
「へ? 冷たいの?」
「でもそこがいいんだよなぁ」
 完全に悦ってる。入ってるよ、アイツ。自己世界にさ。
「クールな人なんだぁ。なんかカッコよさ気ー!」
 千夏さんや。ちっとも格好よくないし、ちっともクールなんかじゃないですから。てか本人目の前にいますしね。
「冷たくても、なんだかんだいって色々気がきくし、優しいし。ちょっと切れやすいのがたまに瑕なんだけどさぁ」
「へぇ。わたしの好きな人はすっごく優しそうな人。なんか尽くしてあげたいって感じの。ちょっと頼りなさそうだけど……」
 それぞれの想い人を自慢しつつ、酔いしれる二人。ていうか、悪かったわね、切れやすくてよ。
「「でも、好きなんだよねぇ」」
 しかしそんな二人は、声をそろえて極め付けに言い放ったのであった。



 +++++



 一つここで突っ込むことを許してもらえるならば……
「あのさ。コレって覗きじゃないの?」
 あたしは半ば顔を引きつらせて、周囲の眼を全く気にしない二人に声をかける。
 ナオのことは変に意識するのも嫌だから、もうこの際割り切ることにした。一時休戦だ。ぐたぐたするのも面倒だしね。
「「え?」」
 二人は同時に返事をし、振り向く。そのきょとんとした表情がまた何とも、可愛い&キレイだった。キレイな方は論外なんだけどさ。なんかムカつくのよね。男のくせして女よりキレイってちょっと反則じゃない?
「何? 何だって?」
 しかしそんなあたしの心情もお構いなしに、ナオは先ほどのあたしの台詞がよく聞こえなかったのか、首を傾げている。
「だから! 今あんた達がやってることはれっきとした覗きでしょって言ってんの」
 自覚ないのかあんたら。
「何言ってんだよー。これは覗きじゃなくて観察ですよ?」
「そうそう。ある種の研究だよぉー」
 前者の人ぶっ飛ばしてもいいッスか?
 千夏は解る。乙女心で好きな相手を眺めてしまいたくなるのは解らなくもない。だけど、だけどね?
「何で貴様まで一緒に実行する必要があるんじゃぁ――――ッ!」
 平手ビンタ一発。うん、渇いた良い音。ちと気分スッキリ。
「ぐおぅっ」
「黒っちしっかりぃ!」
「うぅ……アタシはもうダメだぁ……」
「そんなぁっ! 黒っちぃぃッ!」
 何悲劇のヒロイン(モドキ)のような演技してんだあんたら。ヘンな所で息ピッタリですこと。
 あたしは呆れるように息を吐き出した。馬鹿馬鹿しい。付き合ってらんないよ、まったく。帰ろ帰ろ。
「……あのぅ」
「う、ぇ?」
 踵を返したあたしに突然声がかかり、思わず間抜けな声を上げてしまった。それから、内心ヤバッと焦る。声をかけてきた人物は、はっきり申し上げますと、千夏のコンビニの君(勝手に命名)だった。
 なんというか、ふとぶち眼鏡で無駄に背が高くてそのくせひょろっとしたなんとも頼りなさそうな奴。眼鏡を取ればそこそこいける顔みたいだけど、趣味が変なのかワザとなのか、そのふとぶち眼鏡のせいで台無しにしているような人だ、簡単に説明するならば。
「誰か具合でも? しっかりとかなんとか聞こえたので……」
「え? あー、いえ、そういうわけじゃ――――」
「ぜ、全然何でもないんです! ごめんなさいっ。お騒がせしちゃって!」
 否定しようとしたあたしの言葉を、突然千夏が物凄い勢いで遮り、顔を真っ赤にしてコンビニの君に謝罪した。うーん……こんな男のどこがいいのか、あたしには悪いがさっぱり理解できない。
 それでも千夏は緊張しているのか、いつもより表情が硬かった。
「あぁ、君、いつもよく買い物にくる人だね」
「へ?」
 しかしコンビニの君の方はさして緊張とかしてるわけでもなく、嫌味のない笑顔を浮かべながら千夏に言った。その言葉に、千夏はパッと顔を上げる。目があったのかすぐに視線を下に戻したけれど。
「あ、あの……なんで?」
 恥かしそうに口ごもりながら、それでも千夏はチャンスとばかりに会話を続けようとしている。
「僕、人の顔覚えるのって結構得意で。えっと、違ってました?」
「え!? いいえっ。あ、あってます! こ、ここから家って凄く近くて……だから、そのっ……」
 語尾の方は縮こまって聞き取れなかった。なんともわかりやすい態度。事情を知ってるものにとっては千夏の言動はじれったかった。これだけ解りやすいリアクションをする子も珍しい。もう彼も気づいてることだろう。
「あぁ、それで」
 しかし、コンビニの君は、千夏の言葉をそのまま素直に受け取ってるっぽい。もしかしなくても、この人鈍感か? 今時いるの? こんな鈍い男がッ!
「すげぇ。あいつある意味国宝級に貴重だぜ?」
 あたしにビンタされたところをさすりながら、ことの成り行きを見守っていたナオがあたしの横でボソリと零す。あたしもそれには意義なし。
「鈍感なだけじゃなく純情そうよね」
「言えてる」
「あ、そうだ、ちょっと待ってて」
 あたし達に好き勝手言われているとも知らず、コンビニの君は千夏にそう言うと、そそくさと店内へ入って行く。しばらくして、何かを手に持って現れた。それを千夏に差し出す。
「はい、よかったらどうぞ」
 そういって手渡したのは、シュークリームだった。ビニール袋の中にいくつか入っているそれを、にっこりと先ほどの笑顔を向けながら千夏の手に握らせた。
「え? あの、これは?」
「ああ、大丈夫。ちゃんとお金は払ってるよ」
「いえ、あのそうじゃなくて……」
「うん?」
 千夏が何を言いたいのか解らないらしく、彼は首を傾げている。
「毒とかも入ってないし、賞味期限が切れてるわけでもないよ? っていても、今日までなんだけどね、期限。売れ残りなんだけど、味とかには問題ないし」
「だからそうじゃなくて、なんで……?」
 わたしにこれをくれるのか。と、そう聞きたいらしかった。それでようやく彼も理解したらしい。やはりこの男、鈍感決定。
「いや、その……いつも買ってたから好きなんだと思って。えっと、実は、クリームの味で真剣に悩んでる姿が可愛いなぁって、前から思ってて。あ、これってナンパになるのかな? ご、ごめんね。いらなかったら捨てちゃっていいから」
 そう言って赤くなる男。その言葉が呑みこめないのか、千夏はポカーンと口をあけて彼を見ていた。一拍間があってからやっと理解し、真っ赤になる。
 あーあ。何だよ。すんげぇいい感じだベ?
 くっつくのは時間の問題か。ちくしょう、あたしは認めないわ!
「いい感じだなー、あの二人」
 ニヤニヤしながら二人の様子を見ていたナオが同意を求めるようにあたしを見る。
「全っ然!」
 あたしは八つ当りするように、ナオの耳元で思いっきり叫んでやった。



BACK   TOP   NEXT