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2/命賭けのダブルデート





 それは突然やってきた。
 それが、地獄への幕開けの第一歩とは知らずに。


「ほへー、黒ッちによく似てるねぇ」
 千夏の第一声。
 男バージョンのナオを見て、早くも身が縮みそうな発言。本人ですから、なんていう台詞はもちろん口が裂けたっていえない。
 千夏は物珍しいものでも見るように、じろじろとナオを眺めまわしている。お願い、それ以上詮索しないで。あたしは寿命が縮むような焦りを覚えながら、祈ることしかできなかった。
 なぜナオが千夏の前で男バージョンになっているかという説明をする前に、まずここで重大発表しなくてはならないだろう。
 なんとこの度、千夏とコンビニの君こと橘 壱(タチバナ イチ)がお付き合いすることになりました。認めたくないけど。まぁ、今はあたしの個人的意見はおいておいて。
 付き合い始めてから一週間。それまで電話やメールで連絡を取っていた千夏は、彼から次の休み、つまり今日にデートをしようと誘われた。今までまともにデートをしたことがなかったらしい千夏嬢は、承諾する代わりにある条件を出しちゃいました。
 その条件が、あたしを巻きこんだダブルデート!
 つまり、焦った千夏嬢は、咄嗟にあたしにも付き合ってる人がいるからと四人でのダブルデートならいいと承諾したのだった。
 ちなみに確認しておくが、もちろんあたしに今現在付き合ってる彼氏などいない。だけど千夏に泣きつかれたあたしは、断るに断れなかった。
 しかし。
 架空の人物をどうやって実際に作れと?
 そう思っていたところに、ホント、ホントにもうバッチリのタイミングであのクソ馬鹿野郎があたしの部屋に上がりこんできたのだ。
 いわずともわかるだろうが、ナオだ。しかも、男バージョンで。
 こうなったらもう、誤魔化すしかないでしょう。あたしは勢いで千夏に、男バージョンのナオを「ナオの兄」という設定にして紹介した。千夏は最初驚いていたが、説明されてあっさりと納得。必然的に奴があたしの彼氏役に持ちあがったというわけだ。
 ……これが、今までの経緯である。
「でもホント助かったよぉ。まさか黒ッちにこんなそっくりなお兄さんがいたなんて。黒ッちって男でも女でもいける顔なんだねぇ」
「そ、そうみたいね」
 あたしは顔を引きつらせながら、相槌を打つ。今日一日、ナオの正体がばれない様に気を張っていないといけないかと思うと、胃が痛い。
「あ、えっと、黒ッちのお兄さん。今日はよろしくお願いします。それと、ごめんなさい。わたしのわがままのせいで迷惑かけちゃって」
「いいえ。妹のお友達の頼みだからね。全然迷惑なんかじゃないよ」
 ナオにぺこりと頭を下げる千夏に、奴は完璧な演技で男バージョンの笑みを浮かべる。あんたにそんな芸当ができたとは驚きだよ。
「そ、そういってもらえると助かります」
 ほら。今のでちょっと好感度アップだし。千夏は少しだけ頬を赤く染めながら照れたように笑って、少し離れたところにいる彼氏の傍に駆け寄っていった。
 あーあ。なんというか、事実を知ったらどんなことになるんだろ。……ちょっと興味あるよね。
「……お前今何か凄く俺にとって不利になるようなこと考えてなかったか?」
 恐るべし、ナオセンサー。そんなに顔にでてたのかしら?
「いやぁねぇ、そぉんなことないわよぉ」
「喋り方が怖ぇよ」
「んー? 気のせいじゃない? ただちょっと知り合いの女装男さんが調子乗ってるなぁって思ったくらいで。そんな奴の秘密ばらしてやったらどんなことになるかなんて、全っ然これっぽっちも考えてないわよ?」
 ちょっと、いやかなり嫌味ったらしく殺気を飛ばしながらいってやると、ナオは引きつらせた笑みを浮かべる。あはは、なんて渇いた笑い。ざまぁみろ。
「まぁ、冗談はこれくらいにしといて」
 仕方ないからあたしはこれ以上ナオを苛めるのは断念した。だってホント泣きそうな顔になってんだもん。
「冗談に聞こえないんだよ……」
「なんか言った?」
「いやっ、何も」
「そう? ま、いいわ。解ってると思うけど、あんた絶対ヘマなんかしないでよ?」
「ヘマやると俺達の未来の危機だもんな」
 そうそう。ってちょっと待て! 俺達ってなんだよ? 達って! 勝手にあたしをまき込むなぁ!
「危機が迫るのはお前だけだっ!」
 奴の脛を思いっきり蹴ってやる。すると少しだけ飛び跳ねて、蹴られた所を抑えるように縮こまった。唸り声がリアルに痛さを伝えてきている。
「おっまえ……不意打ち」
「男ならこれくらいかわしなさいよね」
「あのなぁ! 俺にだってできることとできないことがあるんだよッ」
 涙目で訴えてくる。珍しい、ナオがちゃんと自分のことを把握してるなんて。少しはまともな面があったのねぇ。
「ちゃんと解ってるんじゃない。偉い偉い」
「ムカツクはずなのに、なぜだかメチャクチャ嬉しいのが、さらにムカツク」
 嫌味も込めて頭をなでてやると、ナオは微妙に解り辛い物言いで、ぶつぶつと呟きながら、それでもどこか機嫌は良い方向へ傾き始めていた。
「んで? 結局これからどこへ行くの?」
 あたしはそんなナオを横に、千夏へ疑問を投げかける。
「うん。えっとねぇ、壱君とも話してたんだけど、ボウリング行こうかって。折角ダブルデートなんだからカップル対決しようって」
 にぃっこりと嬉しそうに笑いながら答える千夏さん。
 訊くんじゃなかった……あたしはガクッと肩を落として落胆の息を吐く。別にカップルじゃないし。無理矢理のダブルデートだし。
「いいね。燃えるねッ」
 しかしノリノリの馬鹿が一名。
 もう言わずもがなでしょう。あぁ、今なら思いっきりかかと落しとかできそう。キレイに決まること間違いない。
「ですよね? きゃぁ、お兄さん話しがわかるぅ」
「まかしとけぃ、なんてね」
 悪戯ッぽい笑みを浮かべ、軽くウインクするナオ。うっわ、私すんげぇチキンスキン。鳥肌!
 しかし千夏には受けが良かったらしい。橘 壱と一緒に笑ってる。あ、ありえない。気づかれても困るけど、皆様何で気づかないのでしょう。
「お兄さんってなんだか話やすいですね」
「嬉しいこと言ってくれるなぁ。誉めても何もでないよ」
「ホントですよぉ。わたしって結構人見知りするんですけど、お兄さんはなんだか前から知ってるみたいな感じがして、あんまり警戒しないで済んでるんですよ。やっぱり黒ッちに似てるからかなぁ?」
 だから本人だから。
「よく言われるよ。男としては何だか複雑な気分なんだけどね」
 あはは、と、ワザとっぽい笑み。はっ、チャンチャラおかしいわ。……チャンチャラって何よ。って、自分で突っ込んでるあたしって一体……
 あぁっ、もう! これも全部ナオのせいだ! そうだ、そういうことにしとこう。
 はぁ、あたしってばどんどんドツボにはまっていってる気がする。
「じゃぁ、そろそろ行こうか」
 一人落ちこんでるあたしを余所に、三人は楽しそうに笑いながら頷いた。
 完璧あたしってばのけもんな雰囲気。最悪。



 +++++



 かくして、『決戦! カップル対決ボウリング編☆』が開催された。
 なんつー低レベルなネーミングだろうか。頭痛くなってきた。
「ルールは簡単。2ゲームで、お互いのペアの合計点を足して、多い方が勝ち。負けたペアは罰ゲームとして勝ったペアにお昼ご飯を奢るはめになっちゃうからね。では皆さん、頑張りましょぉー!」
 男どもはオーッ! と元気に腕をあげながら気合をいれている。ナオなんかうきうきしながら球を選んでいた。
 あたしも仕方なく球を選ぶ。うーん、最近ボウリングなんてしてなかったからなぁ。重さはどれがいいだろう。持ってみて、さほど負担がない重さに決めると、あたしは一つ頷いてそれを自分のレーンまでもって行く。
 千夏、壱ペアはすでに球を選び終えて待機していた。
「シーちゃん、重さは何にしたの?」
「あたしは9。千夏は?」
「わたしは7だよ」
 軽ッ! あぁ、でも、千夏のその細い腕とか腕力じゃぁ、それが限界なのかもしれない。ボウリングの球は、重たい方が速く、ピンを倒す威力が強い。まぁ、一番は本人の実力にあるのだけどね。
 ちなみに橘 壱は11。たった今球を持って帰ってきたナオも同じ。ふむ。力的には互角。勝敗を決めるのは技量というわけか。
「面子もそろったし、始めようか」
 橘 壱の試合開始宣言に一同頷いて、決戦が始まった。まずは千夏・壱ペアの、橘 壱から。
 ボールを投げるフォームはなかなかキレイだった。倒れたピンは8本。二回目で残りの2本を倒してスペアを取り、なかなか好調なスタート。
 次は千夏の番。ボールを重たそうに抱え、危なっかしく投げる。もう少しでガーターになりかけたところで、一番端のピンをなんとかみちずれにして一本。二回目は残念ながらガーター。恥かしそうに戻ってくる千夏がまた何とも可愛かった。
 そしていよいよ、あたし達の番。まずはナオ。
 今更だけど、ナオってボウリング得意なのかしら。そういや運動してるとことか見たことない。大学で体育は履修してないし、今までも出かけるなら休みの日は大抵ショッピングばっかりだったから。
「よぉーし。大体やり方はわかった。このボールをあのピン目掛けて真っ直ぐ投げればいいんだな」
 ナオはボールを手に持ちながら自信満万に言う。つか、今の発言おかしくない!?
「ちょ……っ」
 もしかしてナオ、ボウリング経験ないんじゃ―――――?
 思って止めようとしたが、時すでに遅し。ボールを両手で持って思いっきり転がしてる様がなんともアホらしくて、笑い通り越して泣けてくる。
 結果はもちろんいわんでもわかるだろう。
「ちょっと――――っ! あんたさっきボーリング燃えるねッとか何とかいってなかった!? やったことないんじゃないの!」
 戻ってきたナオの胸倉を掴んで迫ると、ナオはきょとんとした表情を浮かべたまま首を傾げている。
「いったよ? 対決なんて燃えるなって意味で」
「なっ……」
 もはや言葉もない。
「お兄さん、ボーリングしたことなかったんですかぁ……?」
「あ、うん。いってなかったっけ?」
 聞いてない。全然聞いてない。てか健全な男児が普通一回もボーリングしたことないなんて思わないだろうよ。そういうことは早くいえよ!
「やったことないなら、やったことないっていいなさいよねっッ!」
 ナオのバカ―――ッ!
 負けたら全員分の昼食肩代わりなんだからぁ! それはいいにしても、勝負ごとに負けるなんてあたしのプライドが赦さないのよっ。
「……なんかシーちゃんの突っ込み、黒ッち相手にしてるときみたい」
 しかぁし。そこでボソリと千夏の台詞。
 や、ヤヴァイ! そういえば今はナオの兄ってことになってるんだった。素でキレてしまった。
「そ、そぉ?」
「なんか黒ッちに突っ込んでるみたい」
 冷や汗だらだら。ど、どうしよう……
「妹と似てるからね。思わずいつもの調子でやっちゃたんだよね? シアちゃん」
「え? あ、うん。そ、そうなのよ! ついいつもみたいに突っ込んじゃったわ」
 ナオのフォローにあたしは咄嗟に同意する。
「そっかぁ〜。まぁ、それだけ似てればついやっちゃうかもだね」
「うんうんっ。そうそう。ホントつい、ね」
 あっぶねぇー。まじ危なかった。心臓止まるかと思ったわ。
「フォローありがと……」
「うんうん。もっと感謝してくれよな。やっぱシアには俺がいないとなぁ」
「うん」
 ……っておい。ちょっと待て。もとはといえばお前のせいだろ!
 しかもさり気に自分の高感度上げるなよ!
「誰のせいだと思ってんだ――――――っ!!」
「シーちゃん!?」
「あ」

 ……エンドレス。



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