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3/終わり良ければ全てヨシっ!





 つ、疲れた……
 とにかくもう、出る言葉はそれしかない。あたしはぐったりとテーブルに突っ伏す。
「シーちゃん? どうしたの? 大丈夫?」
 千夏ちゃんよ……ごめん、あたしゃ全然ダイジョブじゃないよ。
 メチャクチャ疲れてるよ。
 ボーリング事件以後、なんとなぁく千夏ちゃんの視線が痛いというか、なぁんか勘ぐってる感じで何かと気を使いまくったし、ばれないようにいらない神経使ってクタクタだった。
「シアちゃん、早く食べないと冷めちゃうよ」
 いつまでも顔を上げないあたしに、ナオが自分のハンバーグを口にしながら声をかけてくる。しかも、ナオ兄を演じてる間こいつあたしのことちゃん付けで呼ぶもんだからもぉ、呼ばれるたびにチキンスキン。鳥肌たつのよね……
 っていうかさ、本人よりもあたしの方が気を使いすぎて疲れてるってこと自体どうなわけ? 何かすっごい納得いかないんだけど。
 そうなのよ!
 それもこれも全部ナオのせいなのにっ。なぁんであたしがこんな目に遭わなくちゃなんないわけ!?
 しかも例のボーリング対決は、当然というか、あたし達が見事に敗北。ナオのせいで、昼食を奢らされる羽目になりましたとも。
 えぇ、自腹切りましたとも!
「相変わらずハンバーグなのね。お子ちゃま……」
 それらに少しカチンときて、本人にしか聞こえないようにさり気に嫌味を言ってみたりする。
 今あたし達は、夕食を取るためにファミレスにきている。やっとこの偽りだらけのダブルデートもフィナーレを向かえていた。
「ぬっ」
 一口に切り分けたハンバーグを食べようとしていたナオは、それを聞いて咄嗟に手を止める。何か言いたそうな顔であたしを見るが、千夏達がいる手前何も言えず、ぐっと思いとどまった。はんっ、ざまぁみろ。
 ……って、あたし相当性格悪いじゃない。
「本当に具合悪いの? 辛いなら無理しない方が……」
 橘 壱が、心配そうにあたしの顔を覗きこんだ。なんだかなぁ、一番関係の薄い人が一番あたしを心配してるなんて何だか切ない。
「大丈夫です。久々に身体動かしたから疲れただけで」
「明日とか筋肉痛になっちゃてるかもねぇ」
「あ、それはあるかもな」
 げっ、考えてなかった。筋肉痛かぁ。辛いんだよなぁ、あれ。
「はぁ」
「ん? どうしたんだい? 溜息ついて」
 ナオがわざとらしく紳士ぶって尋ねてくる。あたしはあえて無視した。
 ようやく上体を起こし、あたしが注文したグラタンをちょこちょこついばむ。はっきり言って、疲労の方が大きくて食欲なんてなかった。食べるよりも眠りたいって感じだ。
「そういえば、もうすぐ夏休みだね〜」
 千夏が浮かれたようにはしゃぐ。
 そうか。そういや、もうそんなに経つのか。最近時間が過ぎるの早かったからなぁ。この間入学したと思ったら、もう夏休み間近だもんねぇ。
「そっか。もうそんな時期なんだ。でも、その前に定期テストがあるよね、確か」
 橘 壱が現実をぴしゃりと突きつけてくる。それに反応したのは千夏ではなく、ナオの方だった。だらだらと嫌な汗をかいているところを見ると、忘れていたんだろう。お約束ってやつよね。
「テストは嫌いじゃないよ、わたし〜。だから平気」
「千夏ちゃんは勉強できるんだ?」
「やだ、できるって程のものでもないんだよぉ」
「謙虚だなぁ」
 なんだ? このバカップルは。このアホらしい会話は。
「……なんか機嫌悪い?」
 あたしの殺気に気づいたのか、隣にいるナオが顔を引きつらせながら顔を覗きこむ。
 えぇえぇ、機嫌悪いですよ。目の前であんなイチャイチャ見せつけられちゃ、機嫌の一つや二つ、悪くもなるってもんでしょうよ。だいたい会話が低レベルなんだよ! ったく、倖せオーラなんか出しやがって!!
 許すまじ、橘 壱っ!
「お、落ち着けって」
 蛇の如く恨めしそうに橘 壱を睨みつけていると、ナオが小声で慌てたようにあたしに囁いた。
「落ち着いてるわぃ」
 苛立ちを紛らわすために、あたしは食べたくもないグラタンにがっつく。あぁ、明日胃もたれおこしてそう。
 それもこれも全部橘 壱のせいだ。畜生、千夏が幸せそうなのは嬉しいけど、やっぱり悔しい!
 だって、千夏って妹みたいで可愛いんだもの。とられたみたいで、いやあたしのものでもないんだけど、面白くないのは当然だと思う。
 ていうか、半分はうらやましいっていうのもあるのかも。『普通』の男と恋愛ができて。
「……今すげぇ酷いこと考えなかった?」
「いやね。考えてないわよ」
 やっぱり、こういうところだけ変に鋭いわ。恐るべしナオセンサー。あたしはとりあえず笑って誤魔化しておいた。
「さてと、時間も時間だし、そろそろお開きにしますか?」
 皆が食事を終え、ひと段落ついたのを見計らって、橘 壱が告げる。あたしは当然、皆もそれに頷き、駅前で解散となった。
 千夏達とわかれ、あたしはようやく安堵の息をつく。
 やっと解放された! あぁ、長い一日が終わった。
「はぁ、疲れたぁ」
「ご苦労様ッス」
「ホントよ。これも全部ナオのせいなんだからね!?」
 あたしは今まで溜まっていたものをぶつけるようにナオを睨む。ナオはそれに苦笑を浮かべた。
「解ってるって。お詫びにダッツのアイス奢ってやるからさ」
「マジ!?」
 あ。
 即座に反応してしまって、あたしは思わず口に手をあてる。やば。また好物につられちゃったよ。
 しかし、時すでに遅し。
 ナオはニヤリと笑みを浮かべて、あたしの頭をポンポンと叩く。畜生。
 勝ち誇ったように先を行くナオを睨みつけながら、あたしはその後を静かに追った。



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