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1/恵みの夏休み





「っ終わったぁ!」
「解放だぁ〜!」
 ひゃっほう! と喜び舞いあがる二人。もちろん、あたしも気分はすでに夏休み!
 そう、たった今をもって、前期テストが終了したのだっ! よって明日から、いや、もうこの瞬間から夏休みってわけさ!
「遊ぶわよ―――っ!」
「「イェ――――ッイ!」」
 拳を振り上げるあたし達。ハタから見ればさぞバカっぽいだろう。しかぁし。今だけは気にしない。
 なんてったって、夏休みだからね。夏休みといえば、やっぱ遊びまくらなきゃ!
 高校までとは違って、大学の夏休みは恐ろしいほど長い。2ヶ月はゆうにある。こんな長期休暇、学生の間だけだもん! 楽しまなくっちゃ損!
「なぁ! どうせだからこのまま遊んで帰ろうぜ」
「あ、じゃぁ、カラオケ行こうよぉ。ストレス発散したい!」
「いいねぇ。ほんじゃ今日はパァッと遊んじゃおう!」
「「オ―――ゥ!」」
 気分は上々。ハイにもなるってもんよ。
 それに、夏休みにはやりたいこといっぱい考えてたんだよね。旅行とか海とかプールとか! とにかく遊びまくる計画を練っていたわけですよ!
「ねぇねぇ。プリクラとろぉ!」
 街まで出ると、すぐに千夏がゲーセン内にあるプリクラに喰らいついた。目を輝かせている。
 プリクラとはまた健全な女子大生って感じですなぁ。
「プリクラかぁ。テスト終わった記念に1枚いきますか」
「うんうんっ」
 写真は嫌いじゃないし、たまには悪くないと思ってあたしは千夏の提案に賛成する。どの機械にするかで迷っていた時、そういえばナオの反応がないことに気づいた。
「そういえば、ナオは?」
「え? その辺にいない?」
 千夏もナオがいないことに気づき、一緒になって辺りを伺うが、やはり店内にはいない。どこいったんだろ?
「携帯かけてみる?」
「そうね」
 千夏にいわれ、あたしはカバンの中から携帯を取り出すと、ナオの番号にかける。二、三回コールが続くと、聞きなれた着メロが微かに店の外から流れてきた。
「でない……てか、この曲、ナオの?」
「外にいるってこと?」
 千夏と顔を見合わせ、首を傾げながら外に出てみると、店の前で直立不動している奴がいた。
「ちょ、ナオ!? 何やってんの!」
「黒っちぃ?」
 名前をそれぞれに呼ぶが、反応がない。顔を引きつらせたまま、だらだらと汗を掻いている。
「ナオ?」
「……い、嫌だ」
「は?」
 目の前で手を振ってみると、ナオが弾かれたように肩を震わせ、引きつった顔のままかぶりを振る。何この動揺ぶりは?
「絶対嫌だ!」
「何いってんの?」
「……もしかして、黒っちプリクラ苦手とか?」
 意味不明なナオの否定に、千夏がピンッとひらめいたように手を叩いて、ズバリ指摘する。それに、ナオは思いっきり頷いた。
「はぁ? なんで?」
「嫌なもんは嫌だ! アタシは絶対撮らない!!」
 店の前で騒ぎ立てるナオ。
 プリクラくらいでそんな必死に抵抗しなくても。っていうか、そこまで嫌がられると、悪戯心に火がついちゃうのよねぇ。
 にやり。
「千夏」
「あいあいさぁ」
 あたしは千夏にアイコンタクトを送り、ばっちり千夏もそれを理解して、あたし達はそれぞれナオの両腕を確保。ターゲット捕獲完了。
「なっ!?」
 いきなり腕をがっちり掴まれたナオは、目を円くして声を上げる。それから、嫌な予感でもキャッチしたのか、抗うように腕を振り払おうとする。しかぁーし! 逃さないもんねぇ。
「レッツゴー!」
「だぁ―――ッ!! 鬼ぃぃいいぃぃっっ」




 +++++




「……まだ怒ってんの?」
 そんなにプリクラ嫌だったのか。
 よく撮れてるんだけどなぁ。ナオの泣き顔。ふふ……プレミアものよね。
「機嫌直してよぉ、黒ッちぃ〜」
「そうよ。たかがプリクラくらい」
「ぬぅぅ……」
 全く女々しいったらありゃしない。男のくせにウジウジと。
「ほら、いい加減にしなさいよ! せっかくのカラオケが興醒めじゃないの」
 プリクラを撮ったあとからナオが一向に口を利こうとしない。最初は無視して歌っていたけど、横から出てくる不機嫌オーラのせいでいまいち盛り上がれない始末。
「しかたない……何か奢ってあげるから」
 さすがにこんな単純じゃないか、と思いながら、最後の賭けに出てみた。
「わたしも奢るよ」
 千夏も若干罪悪感があるのか、どうにかしてナオの機嫌をとりたいらしい。続けてメニューを広げながら、これなんか美味しそうだね、とナオに見せている。
 ナオはしばし考えこんでから、メニューに目を通し、なぜか頷いてからニヤリと笑った。
「……ジャンボパフェ」
「へ?」
「ジャンボパフェで手を打とう!」
 ……ビシッとメニューを指差し、立ちあがるバカ。ダメだ。単純だった、こいつ。
「黒ッちぃ〜! 機嫌直してくれたんだねぇ」
「まぁ、いつまでもウジウジしててもショーがないし。奢りたいっていう奴が二人もいるんじゃ、奢られないわけにはいかないしなぁ」
 耐えろ。耐えろあたし!
 ここで怒ったらさっきのパターンに逆戻りだ。あたしは沸きあがる殺意をどうにかおさえ、引きつった笑みを貼り付けて言った。
「じゃぁ、頼むわよ」
「おう!」
 注文してる最中も後ろでパフェ―とかバカ踊りやってるし。なんなんだあいつは!
 変わり身が早すぎる。
「んじゃ、アタシも一曲歌おっかな」
「そういえば、黒ッちって何をよく歌うの?」
「んー? 最近の歌とかよく知らないんだけど……」
 最近の歌をしらんで何を歌うんだよ? 懐メロとか?
「てかこれ、どうやって使うんだ?」
「「へ?」」
 ナオはリモコンを片手に、真剣に悩んでいる。ま、まさか……このパターンは!!?
「あ、あのさ、ナオ」
「ん?」
「聞くだけ無駄かもしれないんだけどさ……その、まさか、カラオケ始めて、とか言わないよね?」
「おうっ、始めてだ」
 う、うそんッ……!? ボーリングに加えてカラオケもしたことないなんて! 今時ありえなくないっ!?
 だって18歳の健全な男がよ!?
「あんたいったいどういう生き方してきたわけ!?」
「あ? 普通に」
 お前の普通ってなんだよ!
「これはこーやって使うんだよ」
「あー、なるほど。これで入力完了だな」
 もう突っ込む気力もない。ナオは千夏の指導のもと、ちゃんと入力することができたらしく、マイクを片手に曲が始まるのを待っていた。
 ていうかさ、何歌うわけ?
 疑問に思っていると、曲がなり始める。モニターに曲名が。
「こ、これはっ」
「これって……」
 アニソンか!? アニソンなのか!?
 カラオケ初でアニソン行きますか! アンタやるね!?
 しかもうまいし……
 この日始めて、いろんな意味で奴を凄いと思ってしまった瞬間だった。



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