×

[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。






3/悪夢への序章





 きちゃったよ……
 とうとう、出発の日。
 早いよ。早すぎだよ。
「新幹線って好きー!」
 千夏が車内ではしゃぐ。この時季だからなのか、新幹線もそれなりに込んでいた。始発で乗ったから自由席でも座れたけど、出発してから小一時間経った今では、すでに座れない乗客もいる。
「アタシは今日始めて乗った、新幹線」
「は?」
 ナオは物珍しそうに辺りを見渡しながら、呟く。
「あんた、新幹線も乗ったことないの?」
「うん」
 常々思ってたけど……一体どういう生活してたんだろ。普通に学校とか行ってりゃ、修学旅行で一回くらいは乗るものじゃないの? 新幹線ってさ。
「でもさ、ナオも県外からきたんでしょ? その時新幹線使わなかったの?」
「ああ、アタシの実家、千葉だから。車で送ってもらった」
 千葉か。まぁ、場所によれば東京まで行くのにわざわざ新幹線を使う距離でもないのかしらね。
「実家と言えば、シーちゃん京都なんだよね?」
「え、あ、うん」
「そのわりには、訛ってないよねぇ?」
 ああ。まぁ、京都となるとかなり訛りがあるしねぇ。関西地域自体、喋り方独特だしね。
「あたしの場合は、小さい頃から標準語も叩きこまれたから。京都弁も喋れるけど、通じないでしょ、東京じゃ」
 家の職業柄、どうしても標準語で話さないといけない場合もあるし。っていうか、そういうところ完璧主義者な母親に叩きこまれたわけなんだけど……あの人すごいよ。ほとんどの方言を理解し使いこなすんだから。
「まぁ、確かに方言とかってわかんないよな」
「でもわたし関西弁好きー!」
 そうかいそうかい。
「なんでやねんっ!」
 ナオが突っ込みを入れる。ていうかそのタイミングはちょっと違うくない?
「あー、それにしても、楽しみだなぁ、京都」
「だねぇ」
「ちょっとちょっと。二人とも遊びに行くんじゃないんだからね?」
 あたしは今から想像するだけでも背筋が凍りそうなのに。あの惨状を知らないからそんな安穏としていられるんだ。
「そうだけどー。でも旅館で働くなんて、楽しそうじゃない?」
「解る解る。着物着て客を案内するんだろ? ああいうのって、結構憧れてたんだよな」
 その思考も、きっとものの一時間で崩壊するわよ。
 なんて台詞は、心の中にとどめておく。
 あたしは小さく溜息を落とした。気が重い。
 あの地獄を味わうのもだけど……何よりあの家族を二人に見られてしまうというのが、何とも厭だ。余計収拾つかなくなりそうで。
 絶対ノリがナオの波長にピッタリあってしまいそうな、っていうかあうだろうこの現実が厭だ!
 やっぱ一人で帰ってくればよかったかなぁ、としばし後悔する。まぁ、どちらにしても千夏のバイトの話があった時点でそれも無理よね。
 結局これからの状況から逃れる術はないのか。
「はぁ」
 思わず大げさに溜息をついてしまってから、あたしはしまったと顔を上げた。二人に怪しまれたかと心配したが、京都観光について熱く語り合っていた二人は、全くといっていいほどあたしの存在を綺麗に無視してくれっちゃってたり。
 複雑な心境を抱きながらも、あたしは心中で突っ込みを入れた。観光なんてしてる時間は絶対にない、と。っていうか、二人とも絶対泣き言吐いてる。帰りたい〜、とかなんとかね。
 鮮明にそれが想像できて、思わず吹きだしそうになったのを、必死で堪える。
 思考を切り変えるように、あたしは窓の外を眺めた。
 今だ興奮の冷めやらない二人。あたしの心配とは裏腹に、新幹線は速度を増して目的地までの距離を着々と縮めて行った。



BACK   TOP   NEXT