2/手紙と八坂神社





「……何、これ?」
 まてまてまて。落ち着け、あたし。
 大丈夫だ。あたしの錯覚なだけかもしれん。よし、目をこすってみよう。ごしごし……
「……」
 どうやら錯覚ではないらしい。
「意味が解らないんだけど」
 何?

『祇園の祭り、祭礼の場所が目的地。さぁてどこだ?』

 って……
 クイズかよ!? 何が言いたいわけ!?
「これどうしたの」
「昨日カバンの中に入ってて。最初は何も書いてないからイタヅラかなぁ、って思ったんだけど。試しにあぶって見たらそれが浮かび上がってきて」
 なるほどなるほど、オーケー。なんであぶるとかいう思考がさらりと出てくるのかはこの際突っこまないことにして。
「何かのクイズ?」
 えらく古典的だけど。おまけにあぶり出しって……何なんだこれ? 詳細が書かれてないし意図がわからない。
「やっぱりそうなのかな?」
「目的地に行けってこと?」
「祇園祭りって言えば、八坂神社、かな?」
「そうね。それしかないわね」
「行くの?」
「当然っ! あ、そういえば何でこれをジュンには相談できなかったの?」
 もう一つの謎が浮上し、あたしは訊いてみる。別にラブレターとかじゃなかったんだから、ジュンに見せてもよかったんじゃ?
「うーんとね、私が誰かから何かを貰ったのを報告すると、ジュン君凄く不機嫌になるんだ。見せた瞬間にジュン君やお父さんはすぐに燃やして捨てちゃいそうだし、でもこういうの気になるでしょ?」
 なるほど。機嫌悪くなってギクシャクするのが厭だし、手紙の真相も気になったからジュンには言いたくなかったわけか。
 でもさぁ、それのせいで結局ギクシャクしちゃうってことには気づかないのね。しかもこれは貰った云々とはちと違う気がするんだが。
「……いいわ。じゃ、ジュンには内緒でこれの謎を解こうじゃないの。メア、今から八坂神社行くわよ。これを出した人物探し出して、真相を確かめるのよ!」
「うんっ」
 ちょっとわくわくしてきたわ!
 犯人捜し。どんな奴が待ち構えてるんだか、あぁ、あたしの好奇心をかきたてる!
「そうと決まれば早速行くわよ! そこの三人ー!」
 あたしは手に持った紙切れを振り回しながら、ナオ、千夏、ジュンを呼んだ。三人はそれに気づいてそれぞれかけよってくる。
「何?」
「ふふふ、今から八坂神社に行くわよ!」
「え? もう金見ないのか?」
「もう堪能したでしょ? ちんたらしてたら他を回れないわよ! ほらほら、出口へゴー!」
 あたしは久々にテンションを上げて皆に示すようにビシッと出口を指した。



 +++++



 京都三大祭の一つとして知られる祇園祭。その祭りがこの神社の祭礼であり、祇園造りと呼ばれる独特の様式本殿がある、ここ、八坂神社。
 観光客がほとんどを占め、いつもと変わらない喧騒や会話が広がっている。あたし達もその観光客に混じって見て回っていた。
「八坂神社って祇園祭で有名な神社だよねー?」
 千夏が辺りを物珍しそうに見渡しながら、呟いた。それに、ナオが反応を示す。
「おー! 祇園祭! それっていつ!?」
「もう終わってる」
 ジュンが一言。ナオは打たれたような衝撃を受け、がっくりと肩を落とした。
「祭り見たかったなぁ」
「わたしも〜」
「しょうがないわよ。ちょっと来るのが遅かったわ」
 二人を慰めるように言いながらも、あたしは手紙主の方が気になってしかたなかった。行き交う人を注視しているが、特に何かが起こるような気配はない。
 それとも、目的地に行けば何か起こるってわけじゃないのかしら?
「……あの、失礼ですが」
 そう思った矢先だった。不意に声を掛けられ、あたし達は立ち止まる。振り向くと、真っ黒のスーツに黒のグラサン、いかにも怪しく暑苦しそうな長身男が立っていた。
「撫茅 詩亜様御一行ですよね?」
「えっ? なんで、それ……」
 当たり前のように出てきたあたしの名前。なんで知ってんの!?
「だ、誰!?」
「ある御方からこちらを預かって参りました。どうぞ」
 一枚の紙切れが握られていた。それをあたしに差し出す。あたしは紙と男を見比べながら、そろっとそれを受け取った。
 二つ折りにしてあった紙を開いて、中をのぞく。
「……」
「なんだこれ?」
「真っ白だな」
「真っ白だね」
 ナオ達が首を傾げている横で、メアがライターを取り出す。やっぱり、それなんだ。
 やっぱりこれも、あぶり出しなんだ。
「め、メア!? 何でそんな危ないもん持ってんだよ!」
 それを見たジュンが、あたしと同じ様な反応を示し、メアからライターを取り上げる。そんなジュンから、今度はあたしがライターを取り上げた。
「っ!? シア?」
 取り上げられたことに首を傾げ、ジュンがあたしを見上げる。だけどあえてそれを無視し、さっき同様、火を付けたライターを紙に近づけた。メア以外の全員が息を呑んだのは言うまでもない。
「あ!?」
 いち早く反応を示したのはナオだ。薄っすらと浮かび上がった文字に目をぱちくりさせる。
「あぶり出し!? 始めて見た!」
「なんて書いてあるの?」
「……『来られし、恋愛成就。真っ直ぐ歩いて恋を掴め』?」
 また謎のクイズですか。
 何かアレみたい。ウォークラリー? クイズを解いて前に進め、みたいな……あたしは肩を竦めた。
「あの、これ誰が?」
 手紙を渡してきた長身男にたずねようと顔を上げたが、すでにいなかった。
「……いないし」
 つーか、誰なの、あれ。ある御方ってそもそも誰?
「なんかよく解んないけど、これがどこなのか皆で考えようぜ! こういうのわくわくする!」
「賛成〜」
 ナオが見事に喰いついて、あたしから紙切れを奪い取った。まぁ、この展開の方があたしにはありがたいけど。
「そうと決まれば早速作戦会議だ!」
 何の作戦だよ。思いながら、あたしはナオの発言に頷きを返した。


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