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3/親心とクイズと答えの行方





 京都の名所、清水寺。
 そこにある茶屋に、二つの影。
「ふふっ、二人きりでデートなんて何年ぶりかしら?」
「四、五年ぶりくらいか」
「随分と忙しかったものね。あの頃に戻った気分だわ」
 湯飲みを傾けながら、女性がクスクスと笑みを零す。男もつられるように薄っすらと笑みを浮かべた。
「あの子達、ちゃんとここまで辿りつけるかしら」
 ふと景色に視線を向け、慈しむような表情を浮かべる。色々な思いを秘めたそれをじっと見つめながら、男も女性の視線を追った。
「着けなくても、思い出になればそれでいいだろう」
「ええ、そうね。楽しい夏休みの思い出になればそれでいいわね」
 その笑顔は、確かに、母親のそれだった。



 +++++



 同時刻。世界文化遺産、清水寺の入り口にて。
「着いたわよ、清水寺!」
「これが、清水寺かぁ」
「階段あるじゃん……これ登んの?」
「たいした段数じゃないわよ。ほら、行くわよー」
 あたしは気だるげに見上げるナオの背を押しながら、階段に足をかけた。
 時間を遡ること数十分。
 あの二通目の紙に記された文章の謎を解くために、作戦会議と称してそれぞれが悩むこと数分。
 偶然見つけた続きの文に気づいたあたし達は、喰らい付くようにそれに飛びかかった。

『追伸。この場所は世界文化遺産に指定されてるよ。いわなくてもわかると思うけど、超有名だよん☆』

 明らかに答えをちらつかせるような文章。
 それでピンと来たあたしと双子の答えが見事にハモり、結果的にあたし達をここへ導いたくれた、というわけだ。

『来られし、恋愛成就。真っ直ぐ歩いて恋を掴め』

 つまり目的の場所は、縁結びの神様がキャッチフレーズとなっている、世界文化遺産、地主神社。
 紙に書かれた謎の文は、清水寺の一部でもあるその場所にある、恋占いの石のことをさしていたのだろう。
 石と石の間を目を瞑って歩き、向こう側の石まで真っ直ぐに歩いて触ることができれば、恋が叶うというあれだ。
「なぁなぁ、おみくじやろうぜおみくじ!」
 見事に清水寺スルーで地主神社に一直線するや、ナオがおみくじの前で叫ぶ。
 ……つーか、段々中身まで乙女になってきてない?
「わたし、よりいっそう中が深まる、だって!」
 千夏が黄色い悲鳴を上げた。へぇー。これ以上バカップルするつもりですか。勘弁してくださいよ。
「アタシ、諦めなければいずれ実る恋、だってさ!」
 へ!?
 み、実っちゃうの!? いや、まて落ち着けあたし。ほ、本気にとっちゃダメよ! あくまでおみくじなんだから!
「よかったね、黒ッち! わたし応援するからっ」
「ありがとう、ちなっチャン! アタシ頑張るぜ!」
 二人は手を取り合って小躍りし始める始末。頑張らないで。お願いだから頑張らないでよ。
「よーし! 次は恋占いの石だな!」
「私も行くー!」
 あたしの心情まるで無視なナオと千夏は、元気よくタカタカと階段を駆け上って行く。あたし達もその後に続いた。何だか子どもの遠足に引率している保育士さんになった気分だ。それよりももっと性質が悪いだろうけど。
「うぉー、本物だ!」
「結構距離あるねぇ」
「これくらいなら余裕だって」
 いいならが、ちゃっかり列に並ぶ二人。
 観光客の中には外国人も多く見られ、半分切るんじゃなかろうかというくらい目立つ。今も恋占いの石を独占状態だ。
「頑張ろうね! 黒ッち」
「おうっ」
 意気込む二人。
 順番が回ってくると、最初に千夏がトライする。よたよたと危なっかしいし、何度か激しくそれてしまったが、奇跡的に石に辿り付く。恐るべし橘 壱へのラブパワー……
 辺りから喚声が上がった。
「やったぁ! 黒ッちも頑張って!」
「まかせとけい!」
 問題のナオの番。奴もよろよろとよろけながら、少しずつ距離を縮めていく。
「あー、ナオ! それてる! もっと右!」
 あ。つい応援しちまったよ。でもなぁ、こういうの見ると加勢したくなるのよね。
「しっかりしなさいよ! そっちじゃないってば!」
「黒ッち右だよ、右!」
「ナオちゃん! そこよ! 斜め45℃右方向よ!」
 そうそう、斜め45℃右。的確な指示じゃない。
「いい調子よ! そのままシアちゃんのハートもゲットよ!」
「そうよ、そのままっ……へ?」
 今何と?
 ていうか、何かすっごく聞き覚えのある声が……?
「なかなかいい線行っているな」
 んん?
 え? ちょ、この気配は……振り返りたくない自分を何とか叱咤して、あたしはゆっくりと振り返る。
「と、かっ……」
 うそん!?
「あれ〜? お父さんとお母さん?」
「なんでここに!?」
「いつからいたの!?」
 双子も気づき、三兄弟それぞれの台詞。
 三人とも見てるってことは、幻じゃないわけよね? なんで父母がこんなところにいるのよ!?
「あら、なんでって、なかなか面白かったでしょ? ママ特性ウォークラリー」
 ふふ、と笑いながら、さらりと事実を突きつける実母。それにピンときてしまったあたし。
 今この瞬間ほど、この人から生まれてきたことを激しく呪ったことはない。
 つまり……
「母さんのいたずらってわけね!?」
 ジュンも悟ったらしく、顔を引きつらせながら両親を凝視している。メアはあははーと、笑いを立てているだけだ。
 双子の性格を見事に読み取った上で、メアのカバンにそれとなく手紙を仕込ませ、時間を見定めて一時姿をくらまし、双子とあたし達を鉢合わせることによって今回の展開を想定した、見事な計算。極めつけは親父の登場だろう。
 こんのくそババァ……変なところだけ悪知恵が働くんだからっ!
 全ては鬼神女将と包丁投げの料理長との企みだったのだ!
「あら、いたずらだなんて。これは親としての配慮よ? 夏休みなのに、家族でお出かけにもいけないし、いつも二人でお留守番なんて寂しいだろうっていう親心よ。ちょうどシアちゃんが帰ってきていたし、お友達との観光もかねて、ね? 一石二鳥でしょ」
「一石二鳥でしょ、じゃない! つーか何で二人共がこんなところにいるのよ!? 仕事抜けないからあたしに二人の相手をさせたわけでしょ!? 二人付いてきてたら意味ナイじゃん!」
「え〜? だって、どういう展開になるか気になったんだもの〜。それに、考えてみればシアちゃん達だけお休みなんてズルイわぁ。ママ達だってたまには休みたいもの。ねぇ、直隆さん?」
「ああ」
 このバカップル夫婦が。年端のいったオバサンがくねくねと体を揺らすな! 気持ち悪いっ。
「っていうか旅館は!? あんた女将の自覚あんのか――――――!?」
 何てオチなんだ! 信じられないっ。
 その日、あたしが記録的な怒声を張り上げたのは、たぶん思い違いなんかじゃない。


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