2/残るは疑問と心労





「何だかんだ言っても楽しかったなー」
「仕事は大変だったけど、シーちゃんの家族は面白い人達ばっかりだし! メアちゃん可愛かったなぁ」
 帰りの新幹線の中で、余韻に浸る二人。あたしはそれを聞きながら、流れる景色を眺めていた。
 通り過ぎる街は、アタシの知らない場所ばかり。そんな景色の中に浮かぶ、母の爛々とした顔。

『だって詩亜ちゃん、あなたナオちゃんのこと好きじゃない』

 思い出して、ひくりと頬を引きつらせる。あたしは思いっきりかぶりをふって、回想を打ち切った。
 母さんがあんなこと言うから、さっきから頭の中はそのことばっかリ。どうしてくれよう、あの母親。しかも娘の彼氏が女装男だったとしても公認するなんて。まぁ、実際は付きあってはないけど。付き会う気もないわけだけど。
 でも……
 確かに言われてみれば女装してるって分かった後も、最初は頭にきてたけど、あまりにもいつも通りなナオに完全に毒気を抜かれたというか。途中から怒りも忘れてたというか。
 女装とか好き云々を横に置いておいても、ナオが隣にいるのは、別に嫌じゃない。それが不思議なのよね。
 っていうかそもそも、何でナオは女装なんかしてるんだろ。そうよ、あたしまだその理由を聞いてない。
 いいように誤魔化されて、先延ばしされたんだから。あたしはちらりとナオを横目で盗み見ながら、小さく肩を落とす。
 もしかしたら、母さん達が言うように、あたしは……
「……な、シア。お前もその方がいいよな?」
「へ!?」
 真剣に悩んでいただけに、突然肩を叩かれてあたしは心臓が飛び出しそうなほど驚いた。
「な、ななな何!?」
「何そんなに驚いてんだよ、お前」
「だ、だって、突然声なんかかけてくるからっ」
「突然じゃねぇよ、さっきからずっと声かけてんのに、お前難しい顔浮かべて無反応だし。しょうがねぇから強攻手段に出たんじゃんか」
 言いながら、横で千夏がうんうんと頷いてる。う、そうだったのか。
「ご、ごめん。それで、何?」
「もうすぐ着くからさ、ちょっと早いけど、どっかで食って帰るだろ?」
「え、あぁ、夕飯ね。そう、ね。その方がいいかもね」
 正直精神的にクタクタであたしは何か買って帰って自宅でゆっくり食べたかったけど、そうなるとナオと二人っきりということになるし、それはそれで居心地が悪い。
 外で食べるなら千夏もいるし、その方がマシだろう。
「さっすがシア、そうこなくっちゃ! で、どこで食う?」
「駅前のファミレスとかでいいんじゃない? 気軽だし」
「えー!? 折角バイト代入ったのに、ファミレスかよー! ここは盛大に焼肉とか食いに行こうぜ!?」
「はぁ!? 焼肉だぁ? あんた金入った傍から使うわけ? そもそも、このバイトは千夏が必要だからやったんであって、千夏に使わせるようなこと……」
「だから! アタシの奢りで! これなら文句ないだろ?」
 あたしの言葉を遮り、ナオが高らかに言い放つ。
「へ?」
「だからぁ、アタシが全員分奢るから! それなら文句ないッショ? な、ちなっチャン?」
「え、うーん……でも、何か悪いよぉ」
「ダァイジョブ。遠慮なんかしなくていいからさ! だってアタシが食べたいんだから!」
 そんなこと堂々と言うなっての。
「なー! 行こうよぉ! やーきーにーくー!」
「あぁ、もうッ。車内の中で叫ぶなっ。解ったわよ。ここは素直に奢られましょ、千夏」
「う、うん。じゃぁ、お言葉に甘えて」
 渋々承諾すると、途端に目を輝かせるナオ。嬉しそうに肉―! と叫びたいのを我慢しながら呟いている。相変わらず、変わり身の早い。しかも、強引。
 まぁ、嫌な強引さじゃないから、いいんだけどさ。
「そういやこの間駅近くに焼肉家オープンしたよな? あそこ行こう!」
「でも確か、そのお店って食べ放題とかじゃなかったはずだよ?」
「高いんじゃないの?」
「ダーイジョウブ! バイト代があるから問題ナシ!」
 もしかして、一気に全部使い果たすつもりじゃ……
「やっぱぱぁっと使わないとな!」
「金遣い荒すぎだってば」
 相変わらず考えることが大胆というか、何にも考えてないというか。
「大丈夫だよ。アタシには信用できる相棒がいるから」
「え?」
「無茶なことしようとしたら、必ず止めてくれるじゃん。アタシ、シアのこと信じてるからさ」
「なっ……」
 はにかんで見せるナオ。
 そんなことさも当然のようにいわれたら、う、嬉しいじゃないの……

『ほぉら、やっぱりナオちゃんのこと好きじゃない』

 なんて母の台詞が、リアルに聞こえてきそうだった。


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