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1/夢と現





『大真面目の大マジ』

 長い髪を払いのけ、さらりと言ってのけた、懐かしい顔。
 あぁ、過去の夢か、これ……
 しれっとした表情とは裏腹な楽しそうな口調に、俺は思わず眉をひそめたんだっけ。

『もうこれは決定事項だから』

 淡々と義務的に紡ぐ言葉に、俺は怒りを通り越して呆れた。
 まさか強行突破にでるとは、思いもしなかった。
 普通は思わないだろ。女装させてまで女子大に通わせる身内がいるなんてことは。

『きっと驚くわよ。凪嗚』
 フッと表情を和らげ、薄っすらと笑みを浮かべる。
 久々に見せられた表情に、俺は面食らった。

『手配はこちらでしておく。楽しんできなさい。後悔の無いように』

 まるで軽いノリで旅行にでも行くような物言いに、俺は苦笑いする。
 彼女の命令は絶対だ。俺が逆らえるはずもない。仕方なく頷く他に道はなかった。
 正直どうでも良かったというのもある。ただ、なぜ今更、という疑念はあったが。
 だから……
 こんな仕掛けがあるなんてこと、誰が予想しただろう。
 まさか、再び出逢うことになるなんて。
 あの凛とした、真っ直ぐ前を向いて生きている少女に――――――




 ひんやりとした感触に、俺は顔を顰めた。浮上する意識の中、かすかな違和感を覚えて、目を開ける。
「あ……?」
 ぼやける視界。目をこすり、俺は起き上がる。その瞬間、身体を引っ張られる感覚に、俺はそっちへ視線を向けた。
「えっ?」
 俺の服を掴んだまま、ベッドの上に頭を伏せて肩を丸めて眠っているシアに驚き、俺は思わず身を引く。握られていた場所が、僅かに温かい。
「なんでシアが俺の部屋にっ……」
 って、ここ俺の部屋じゃない? よく見ると、明らかに俺の部屋の景色とは違うことに気づき、むしろ俺がここにいることの方がおかしいことを知った。
 でも何で俺、シアの部屋で寝てたんだ?
「あ……そうか」
 記憶を辿り、理由に行きつくと俺は納得の意味も込めて手を叩いた。
 確か、自宅に戻ってきてから、いつものようにシアの部屋にきて――――――その時に多分倒れたんだ。何か熱っぽいなぁ、とは思ってたけど、まさかホントに熱があったとは。でも、ということは、もしかしなくてもシアはずっと俺の看病をしてくれていた……?
 ふと枕元を見ると、氷枕が敷かれている。
「マジ、で?」
 そういや、熱下がってる。気持ち悪い感覚ももうないし、むしろスッキリしてる。
 やっぱり、無理な労働が祟ったんだ。ホント、きつかったもんな、あれは。
 俺はベッドから下りて、眠ったままのシアを抱えると、ベッドに寝かせてタオルケットをかけてやった。
 いつもならちょっとした衝撃で目を覚ますのに、起きないということはほとんど寝てないんだろう。俺はシアが座っていたイスに腰掛けると、静かに彼女の寝顔を見つめた。
「……可愛いなー」
 静かな寝息を立てて、シアの胸が上下する。
 しっかり者で明るいシアは、頼れるお姉さんタイプだが、容姿はどちらかというとそれとは逆の可愛い系。ショートの髪に、格好はわりとカジュアルなものが多い。あまり着飾るタイプじゃなく、さっぱりとしたイメージだ。
 髪を伸ばしてもっと着飾れば、随分と雰囲気も変わるだろう。
 年相応の容姿ではあるが、はにかんだ顔は少し幼く映る。またその時の顔が俺的クリティカルヒットで。食べてる時は無条件でその表情になるから、無理矢理にでも何か与えたくなるというものだ。
 あの顔を、ずっと見ていたいと思った。見ているこっちまで幸せな気分になれる笑顔。
 手に入れたくて。その表情を俺だけに向けて欲しくて。
 どうやったら、俺のこと見てくれる?
 どうしたら、この想いを伝えられる?
 きっとシアは、冗談だと思ってるんだろうな。俺が本気じゃないって思ってるから、いつも無防備なんだ、きっと。
「俺、これでも結構頑張ってるんだけどなぁ」
 無理矢理手に入れてしまいたい気持ちと、傷つけたくない気持ちが対立する。それをどうにか相殺してやりすごしてるけど、もう少し俺のこと男だって意識してもいいんじゃないか?
 まぁ、警戒されすぎても困るんだけどさ。
 俺は苦笑しながら、シアの髪を撫でる。サラサラと流れる細い糸は、絡まることなく俺の指から滑り落ちた。

――――――きっと驚くわよ

 懐かしい声が、煽るように蘇る。
 とんだ策士だ。
 思わず苦笑が浮かぶ。
「全部お見通し、ってわけか」
 ホンの一瞬だったのに。きっと瞬きするほどの時間だったのに。俺の中に密かに生まれ出た感情を、彼女は瞬時に感じ取ったのだから……
 さすがというべきか、恐るべしというべきか。
 苦いものを感じつつ、俺は静かに眠るシアの頬に、そっと触れた。


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