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2/急接近?





「……」
 一番最初に視界に飛び込んできたのは、天井だった。しばしフリーズした脳が、徐々に動き始める。
「あ!? なんでっ」
 いつの間にかベッドに横になっていたあたしは、咄嗟に飛び起きた。辺りを見渡しても、本来ここで眠っていたはずのナオはいない。
「ナオ……?」
 うそ。確かに朝方まではここで眠ってたのに。熱に浮かされてふらふらと出て行っちゃったりとか!?
「ナオ!」
「呼んだ?」
 勢いよくベッドから飛び出したあたしは、その間抜けな返答に思わずこけそうになる。
 何とか体のバランスを整えて立ち上がると、ちょうど玄関から入ってきたらしいナオが不思議そうな顔をしてあたしの前まで近寄って来た。
「アンタ、熱は!?」
「あ? もう完璧完治。すっかり下がったぞ」
 手にビニール袋を提げ、ぶらぶらと回しながらいつもの軽い調子で告げる。あたしはそれに、なぜかホッと肩の力を抜いた。
「そう……っていうか、どこ行っての?」
「ん? あぁ、昼飯買ってきた。シアが起きたら食べられるように」
 お昼ご飯? あたしは咄嗟に時計を見る。げっ、もうお昼前じゃない。あたし、相当寝てた……?
「って、アンタ病み上がりなのに! 何で大人しく寝てないのよ! 起こしなさいよ、あたしをっ」
 そうよ。目が覚めたらベッドの上でビックリしたんだから。確かあたしはイスに座って本を読んでいたはずなのに。途中で寝ちゃったみたいだけど。
「何か悪いし。ホントにもう調子もいいし」
「でも」
「ダイジョブダイジョブ。俺、こう見えても案外丈夫だから。それより、ありがとな、シア」
「え?」
 ナオはあたしに背を向け、テーブルに買ってきた弁当を広げつつ、顔だけ振り返って満面の笑みを浮かべた。咄嗟のことに面食らって、あたしは目を見張る。
 えっと、何か感謝されるようなことしたっけ?
「夜通しずっと看病しててくれたんだろ?」
「あ、あぁ……」
 そのことか。仕事柄他人の世話をすることが当たり前になっていたから、お礼を言われると何のことだか解らなかった。しかも慣れてないだけに、何だか気恥ずかしかくてあたしはナオから視線を逸らして頷く。
 そっか、確かにこういう場合はありがとう、だよね。
「さ、飯にしようぜ? シアの好きそうなのいろいろ買ってきたんだ。あー、腹減ったー」
 一人先に席について、ナオは合掌すると弁当のおかずに箸を延ばす。あたしは半分呆れて、でも何だか妙に嬉しくて、ナオの後ろ姿をじっと見つめながら僅かに笑みを零した。しかも見てるうちに、何か無性に……
「ぶ……っ!」
 思ったら、行動に移していた。ナオが驚いたように口に入っていたおかずを吹きだす。
「汚いわねー」
「なっ、だ……ッ! おまっ、何やって!?」
 おーおー、声裏返ってるし顔も赤いよ、ナオちゃん? バカみたいに素直な反応に、あたしはまたも笑みを零す。何だか無条件で笑える。
「何って、抱きついてる」
 そう。後ろ姿見てたら無性に抱きつきたくなったのだ。特に理由なんてなくて、ホントに何となく。強いて言うなら、衝動に任せたノリ?
「だから! 何でそこで抱きついてくるんだよ!?」
「さぁ? そこに抱きつきやすそうな背中があったから?」
 今のナオの反応……相当面白い。本人には悪いけど、もうちょっとからかって見よう。
「何よ。嫌なんだ?」
「そっ、んな!? い、嫌ではないけど! でも、そのっ、た、頼むから!」
「何?」
「は、離れてくれっ」
「何でよ?」
 やたら焦ってる様子のナオ。いつもこっちの歯が浮きそうになるくらいの台詞を吐いておきながら、ちょっと抱きつただけでこの動揺っぷり? まさかナオって、案外純情? ナオのことだから余裕っぷりを披露すると思ってたんだけどなぁ。
「もっ、ホントマジで勘弁ッ……ち、近い!」
「必死ね、ナオ」
「わ、解ってんなら早く離れろ!」
「顔真っ赤だよ? ナオちゃん」
「シア!!」
「分かったわよ。お腹もすいたし、そろそろ悪ふざけは終わりにする」
 あまりにも必死だから、あたしは仕方なくナオから離れた。途端、バタバタと足音荒くナオは部屋を出て行く。うーん、ちょっと苛めすぎたかな。
 あたしは頭をかきながら、取り残された弁当のおかずを摘んだ。


+++++


 同時刻。
 一人の青年と少女……ではなく、二人の少女が一枚の紙切れを頼りに四苦八苦していた。一人は長身、もう一人はおっとりとした雰囲気の女性だ。
「……三丁目、って、このあたりじゃないの?」
「地図では三丁目になっているけれど。一概に三丁目といっても、広いのね」
 ふふっと笑みを零し、迷っているなどとは露ほども感じさせない物言いに、長身の少女は呆れたように肩を竦める。
 ……厳密に言えば、四苦八苦しているのは長身の少女一人で、もう一人はその困り果てている少女を見て楽しんでいる、という構図であった。
「あのなぁ、もうちょっと深刻に悩んでもよくないか?」
「あら、これでも真剣に考えているわ」
「何を」
「あと何時間で辿りつけるかを」
「時間じゃなくて場所を考えてくれ! っていうか、お前地図読むの得意なくせに、何であたしに道案内をさせようとするんだよ!」
 長身の少女は言葉荒く捲し立てる。しかし相手の少女は全く表情を変えないまま相変わらず微笑みを絶やさない。
「あら、だってそれじゃ面白くないでしょう?」
 表情とは裏腹に、酷なことをさらりと言ってのける始末。
「今は面白さなんか求めてないっ! とにかく時間がないのに―――――! シアちゃんどこーッ!」
 長身の少女は叫び、地団駄を踏む。捜し人の居場所を求め、二人はさらにさ迷い続けるのだった。
 

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