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3/突然のご訪問





 ナオが戻ってこない。
 あれから数時間待ってはみるものの、一向に戻ってくる気配がない。うーん、やっぱり思った以上にやりすぎたらしい。ちょっと反省。
 あたしは何度目かの溜息をつく。と丁度、家のチャイムが鳴った。
「ナオ?」
 いや、奴ならわざわざチャイムを鳴らすなんて面倒なことはしない。っていうかそもそも、する必要もない。ということは来客か。
 あたしは立ち上がり、玄関まで行くとドアノブに手をかけて引く。
「着いた―――――ッ!!」
 開けたと同時に軽い衝撃。いきなり抱きつかれて、あたしは心臓が飛び出しそうになった。
 え? え!? な、何!?
 完全にパニック状態である。
「会いたかったー! シアちゃ――――ん!!」
 背後に回された腕に力が込められる。ぐ、ぐるじい……
「ふふ、そろそろ放してあげないと苦しそうよ」
 そこで、ふと視界に入った人物。あ、あのシルエットは!
「こ、梢せんぱ……っ!?」
 我が学園でプリンセスの称号を得た、手芸同好会副会長の幹枝 梢先輩! ってことは、あたしに抱きついてるのって……
「け、啓先輩?」
 同じくプリンスの称号を得た手芸同好会会長の、相楽 啓先輩ですか!? っていうか、何でこんなところに二人が!?
 あたしは先輩の突然の訪問に唖然とする。
「何で先輩達がっ? よく家がわかりましたね」
「あー……うん。まぁ、随分苦労したけど」
「私の予想は一時間と三十五分だったんだけど、二時間弱かかったわね」
「おっまえ、絶対場所わかってただろ!?」
「あら、どうしてそう思うの?」
「お前があたしで遊ぶ時はいつも答えを知ってる時だから!」
「あ、あのー……」
 玄関先でいきなり言い合い始めちゃったところ悪いんですが、近所迷惑にもなるし、あたしも話についていけないし、落ち着いてください、って控えめに言ってみるものの、もはや二人の耳には届かないらしい。
 あたしは軽い頭痛を覚えながら、二人が自然に静まるのを待つしかなかった。うー、見ている限り完璧啓先輩、梢先輩に遊ばれてるよ。
「何やってんの、二人とも」
 数分が経過した時。いつのまにか、呆れた表情を浮かべたナオが先輩達の後に佇んでいた。きちんと女装の格好をして。良かった、男のままだったらどうしようかと思ったけど、あれだけ玄関前で騒いでたら二人の存在にも気づくよね。
 あたしはナオが姿を見せたことも加えて安堵の息をつく。
「あ、ナオ! 久しぶりー!」
 あたしにしたように、啓先輩はナオにも抱きつく。はたから見ればなんだかなぁ。だって啓先輩どっから見ても男の人みたいだし。あんな笑顔で、男だけど女の格好をしている美少女に抱き着く様は何というか……絵にはなるんだけどね。異様というかなんというか。
「啓ちゃん、人ん家の玄関前でぎゃーぎゃー喚くのやめてくんない? 近所迷惑」
 そんな先輩に、ナオはいつになく冷たい口調で告げると、軽く啓先輩の体を押し戻す。さっきの反応が嘘のように、全然取り乱した様子はない。確かに見た目は男の人みたいだけど、実際は女の人なのに。いくら意識してないとはいえ、ここまで反応に差がでるものなのか。
「あ、ごめん。ホントここまで来るの大変だったもんだからさ、ついね」
「それでやつあたりされた私は災難だわ」
「まだ言うか、お前はー!」
「啓ちゃん。話が進まねぇからちょっと黙って。それで? ここまできた用って何なんだ?」
 やたら真面目に、落ち着いた様子でナオが話を進めていく。いつもならあたしの役目なんだけど、珍しいこともあるものだ。あたしは伺うようにナオに視線を送る。けれど、奴は気づかないのか尋ねた梢先輩を見下ろしていた。
「用? ふふっ、貴方達、この二週間どこに行っていたの? 携帯の電波が届かない無人島かどこかかしら?」
 口調こそ穏やかだが、その後ろに隠れる殺気を感じ取ってひやりとする。あ、あのお姫様が! 絵に描いたようなお嬢様が殺気を!?
「お、落ち着け梢。まぁその、立ち話も何だし、上がってもいいかな?」
 梢先輩を宥めるように、啓先輩が話題を逸らす。あたしは慌てて頷き、先輩方を家に招きいれた。帰ってきてすぐにナオが倒れたから、何の片付けもしてないしそのまんまの状態だからちょっと気が引けるけど仕方ない。
「適当にかけてください。今お茶でも」
 思って冷蔵庫を開けるが、何にもない。そっか、二週間家を開けるから冷蔵庫の中身空にして行ったんだった。麦茶も作らないとない……何か買ってくるか。
「ほら」
 肩を落としたあたしに、ナオがビニール袋を目の前につき出してきた。それを受け取り、首を傾げる。
「何?」
「さっきついでに買ってきた飲み物」
 言われて袋の中をみると、数本のジュースやら水やらのペットボトルが入っていた。あたしは咄嗟にナオを見上げる。
「準備いいね」
「それはアタシが飲もうと思って買ってきたやつ。どうせ何にもないんだろ?」
「う、うん」
「それ空けていいから。アタシは適当に菓子でも買ってくる。話聞いといて」
「え、ちょ、ナオ!?」
 その後ろ姿を呼び止めるが、さっさと部屋を出て行ってしまった。何、あの態度。
 話してる間、一度も眼を合わせてくれなかった……もしかして、照れてるんじゃなくて怒ってる、とか?
「何、あれ」
 普段こっちが迷惑かけられてるっていうのに、あたしがちょっとからかったらあの態度?
「どうかしたの? シアちゃん?」
 乱暴に袋からジュースを取り出して並々とコップに注いでいたあたしの背後から声がかかる。そうだ、先輩達いたんだった。
「いえ、何もっ。はい、こんな物しかないですけど、どうぞ」
「ありがと。悪いね、気使わせちゃって」
 二つのグラスをそれぞれ先輩の前に差し出すと、啓先輩がニッコリ微笑む。
 う、その紳士スマイルをされると……弱いんだよ、それには。
「そういえば、ナオちゃんはどこへ?」
 相変わらず笑みを浮かべたまま、梢先輩が小首を傾げる。さきほど感じた殺気はないものの、思わず身構えてしまう。
「あ、お菓子でも買ってくるって」
「まぁ、そんなに気を使わなくてもいいのに」
 少し困ったような顔をして、ストローをくるくるとかき混ぜる。その仕草だけでときめいてしまうあたしって一体……やっぱこの二人は心臓に悪い。
「あのぅ、それで話を……」
 自然に下りた沈黙に耐え切れず、あたしは切り出す。
「あ、うん。まぁ、ナオを待つ必要もないか。それで、さっき梢も聞いたけど、どこいたの?」
「えーっと、実家に」
 帰って地獄の労働してました。とまでは言わなかったけど。
「携帯繋がるよね?」
「あ、はい」
「帰省してる間、携帯見なかったの?」
「え?」
 言われ、そういえば携帯なんて見てる暇がなかったことに気づく。そういや何通か受信や着信があったみたいだけど……あたしは慌てて携帯を掴み、確認した。
「あ」
 メール8通に電話23件×2。それぞれ啓先輩と梢先輩からのものだった。
 そのうちの一通を開き、画面に連なった文章を読んで―――――あたしは顔を引きつらせる。
「これ……」
 二人を見上げると、啓先輩は疲れたような笑みを、梢先輩は相変わらずの微笑みをそれぞれあたしによこした。
「そういうわけだから」
「シアちゃん、覚悟してね?」
 重ねるように告げられた言葉のあとに、ガシッと両腕を掴まれる。右手を啓先輩。左手を梢先輩に。
「え?」
 あたしは抵抗する間もなく玄関まで引きずられ、そのまま半ば連行されるように家から連れ出されたのだった。


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