×

[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。






4/笑み、その先に





「とりあえずこれで大丈夫かな」
「部室の冷蔵庫ちっさいからなぁ。あんまり買いすぎても入れるところが無いしな」
 とか言いつつ結構な量を買い込んでしまったあたし達は苦笑いを浮かべ、丸く膨れた買い物袋をそれぞれ持ち直す。
「ところで、制作のほうはどうだ? 進んでんの」
「……まぁ、何とか。でも、絶対仕上げるわよっ」
「熱いですな」
「そりゃぁ、ね」
 あたしにとっては、初めての作品になるわけだし。共同作業でも、自分の手が加わった作品には違いない。それが出展されるなんて、思っても無い機会じゃない。
 他人の目に触れて、評価をされる。そこに価値があるわけだから、なんとしてでも完成させたい。
「じゃ、今からまた気合入れてがんばらねぇとな!」
「手を止めさせた張本人がよく言う」
「う、それは悪かったって」
 まぁ、ガラにも無くグダグダ悩んでたあたしもあたしなんだけどね。
「冗談よ。もう忘れた」
「流石、早いッスね」
「褒めてんの? それ」
 とぉーってもバカにしてるように聞こえるんだけど? 気のせいかしらね?
「も、もちろん褒めてますがな」
「声がどもってんぞ」
「気のせい気のせい」
 しゃーない、そういうことにしておいてあげようかしらね。全く、相変わらず一言余計なんだっての。
 内心溜息をつきながら、学校前まで帰ってきた所で話題を切り替えた。
「そういえば、夏休み終わったら学園祭があるんだっけ」
「なにそれ」
「は?」
 え、何その本気で解らないみたいな顔は。
「何と聞かれても、お祭り、みたいな? 学校内で色んな催しをするのよ」
「祭り!? 神輿とか神楽とか!?」
 いやそっちの祭りじゃなくて……って、何で学園祭を知らないかなこの男は。
「まぁ、準備とか色々忙しくなると思うし、そうすれば少しはどんなもんか見えてくるわよ。それまで楽しみに待ってなさい」
 世間知らずのこの男に説明する方が疲れる。百聞は一見にしかずっていうし、実際見てみるのが一番理解できるってもんよ。
 そう納得させ、部室までたどり着いたあたしは扉を開ける。
「あ、お帰りー」
 見慣れた風景と共に、啓先輩の紳士スマイルが炸裂する。うおっ、不意打ちにその笑みはグラッと来るわ。
 流石プリンス。格が違うよね、格が。
「あらあら二人とも、随分と長いお買い物だったのね。そんなに吟味するようなものがあったのかしら?」
 と、あれれー? 啓先輩に比べ、何だかプリンセスの機嫌がすこぶる悪い……?
「期日間近に随分と余裕なのね?」
 も、もしかしてもしかしなくても、お嬢様のお怒りかこれは――――!? ひぃー、あの笑みの裏に隠れた静かな怒りがものすごく怖い。見えないようで見えるこの肌に痛いほど伝わる殺気と怒気が恐ろしいのなんのって!
「せ、先輩? その……すみませんでしたっ」
「謝る時間があるなら、その前にやるべきことがあるんじゃないかしら?」
 ですよね―――――!?
「す、すぐ作業に戻ります!」
 し、知らなかった……梢先輩が切れるとあんなにも恐ろしいだなんて。普段おっとりしてる分、余計にギャップが怖い。
「うぅ」
「シアちゃん、そんな気にすること無いよ」
「啓先輩……」
 ふと隣から小声で声をかけられ、あたしは一瞬ビクついたものの、啓先輩だとわかるとホッと胸をなでおろした。
「梢、相当二人のこと心配してたから、元通りになったみたいでホッとしてるんだよ。さっきのはその照れ隠し。本気でキレてるわけじゃないから」
「え?」
 さらりと言われたから思わず聞き流してしまうとこだった。そっか、やっぱり心配かけてたんだ、先輩達に。
 そりゃそうか、自分でも自分の様子がおかしいことに自覚があるくらいなんだから、傍目から見ても丸解りだよね。
「喧嘩ならしょっちゅうだろうけど、今回のは何だかちょっと複雑そうだったからね。仲直りできるかどうか心配してたんだ。でも、和解できたみたいで良かった」
「先輩……」
 思わずジーンとくる。くっ、最近妙に涙もろいわ、グスン。
「迷惑かけてすみません。ありがとうございます」
「気にしないでよ。あたし達が勝手に心配してただけなんだから。それに悩み事があると針に迷いが出るからね」
 あ、やっぱり最終的に心配してんのは作品ですか。そ、そうですよね?
 普通そうだよね、あははははー……はぁ。
「さ、もうひと踏ん張りだよっ、頑張ろう!」
 啓先輩の気合の言葉で、部室がパッと明るくなる。あたしも、ごちゃごちゃ気にするのどうでもよくなってきた。今までピリピリしてた空気が和らいで、皆に笑みが浮かぶ。
「絶対仕上げましょうね」
「はいっ」
 浮かぶのは、気合と決意と笑みと。

 その先に見え隠れする、地獄の数日間なのだった。


BACK   TOP   NEXT