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1/夏の終わりと秋の気配





 何だかんだいって、あっという間に夏休みは終わりを告げようとしていた。
「思えば、色んなことがあったわよねぇ」
 例えればそう、懐かしそうに昔を思い出すおばあちゃんの気分。しみじみと、けれど決して楽しいばかりではなかった大学一年の夏休みが、長いようで短かった夏休みが終わろうとしている。
「秋といえば食欲の秋! 秋の味覚万歳っ」
 人が観照にしている横で、らしいことを堂々と言い放つナオ。あんたの頭の中は食しかないのか。
 もう溜息も呆れも出てこない。
 何というか、慣れって怖いよね。あれだけすれ違ってたっていうのに、今じゃすっかり元通りの生活だし。
「でもさぁ、ホント惜しかったよな。作品展」
 話の内容をガラリと変え、唐突に吹っかけてきたナオにもはや驚くこともせずに、あたしは少しだけ感傷に浸る。
 ギリギリで仕上がった作品をどうにか出展し、逸る気持ちを抑えて作品展を見に行き、そのレベルの高さに思わず衝撃を受けてしまったあたしは、己のレベルの低さを痛感した。
 それでも、あたし達の作品は努力賞を頂いた。
 針を刺す人が違うだけで、同じ作品でもココまで違ったものに仕上がるとは、思ってもいなかった。しかも全体的に見ると、あたし達の作品はあたしがやった部分だけどう見ても素人がやりましたー、というのが丸解りで、結局は足を引っ張っちゃった感じに終わったのがなんとも悔やまれる。
「気にするなって。啓ちゃんたちも言ってたじゃんか、一緒に作品を仕上げることに意味があるんだって。シアならもっと上手くなれるって」
 そう。
 二人ともそうやって慰めてくれて、足を引っ張ったあたしを気遣ってくれた。
 時間が十分になかったというのもあるけど、やっぱり自分で見ても酷すぎる。次の作品はもっと気合を入れて頑張ろう。そのためにはもっと色んな作品を作って、技術を上げていかなければ。
「そうよね。もっと技術を高めていかなきゃ!」
 よし。女将になる為にも、女としてのたしなみは必要だ。針仕事一つまともにできずに何が女将か!
 やるからには徹底的にがあたしのモットーだしね。
「調子出てきたじゃんか」
「当っ然。次の作品はより高みを目指すわよっ」
「じゃ、とりあえず次は学園祭だな」
「へ? 学園祭?」
 何で次の作品の話題からいきなり学園祭に飛ぶのよ。
「この間シアが話してたろ? 学祭があるって。祭りといえば人が沢山くるわけじゃん。そこでシアの作品を色んな人に見てもらうんだよ」
「な、なるほど」
 話は繋がってたのか。確かに、学祭といえばイベント。うちの部活もきっとなんかやるだろう。作品展かなんか、地味でも少しは人の目に触れる場があるなら、気合を入れないわけには行かない。
「そうと決まれば、早速作品何にするか考えないとね! そうだ、明日先輩達もさそって色々構想練ろうかっ」
「おっしゃ! 血が騒ぐぜッ」
 夏休み残り一週間。
 秋の気配を感じさせつつ、それでもまだほんのり暑い一日が終わる。


 +++++


「学祭? うちはもう何するか決まってるよー」
「「へ?」」
 昨日の夜、早速部員にメールを回し、先輩達の勤めるケーキ屋にて収集をかけた。
 ちなみに先輩達は只今バイトの休憩中だ。相変わらずウエイターの格好が似合う啓先輩と対面しながら、あたし達は間抜けな声を上げた。
 久々に千夏とも顔を合わせ、驚く顔は三人分。
「もう決まってるんですか?」
「うん。去年は部員が少なくて何もできなかったけど、今年は部員もいるからね」
「ふぅーん。で? 何やるんだ?」
「喫茶店!」
「き、喫茶店ですか?」
 そりゃまたなんとも横道な……
「あら、喫茶店といっても、普通じゃつまらないから、それなりのイベントは考えてあるのよ?」
 すかさず梢先輩が付け足す。
「イベント?」
「ええ。折角手芸同好会なのだから、お店のアクセントとなるテーブルクロスやカーテンなど小物も含めて全て手作り。もちろん、私達が着る衣装もね」
「え!? 衣装も作るんですかぁ?」
 千夏が驚愕の声を上げる。確かに衣装まで作るのは骨が折れそうだ。というか、手芸の域を超えてるしね。
「もちろんっ! するならとことんやらなきゃ! 手芸同好会といえど手芸で終わらないのがこの部っ。できることはどんなことにも挑戦するのがモットーだからね」
 まぁ、その言い分は嫌いじゃないですけど。
「それに、今から少しずつ取り掛かれば、時間の面では余裕だしね」
「まずはお店の構造やら衣装やらのデザインを考えないと」
 おぉ、話が本格的になってきた。衣装を作るのは大変そうだけど、全部自分達の手作りでお客さんを迎えるって楽しそう。これでこそ学園祭ってもんよね!
「そうと決まれば早速色々考えないとだねぇ」
「でもアタシ、裁縫なんてできないぞ?」
「あら、ナオちゃんは衣装を着て接客をしてくれればいいのよ。それと、準備の間は雑用かしらね」
「え? でも」
「いいのいいの。この企画はナオなしでは実行できないからさ」
 梢先輩と啓先輩が顔を合わせてにんまりと笑みを浮かべた。
 ん? そういえば喫茶店とはいえ、イベント考えてあるって言ってたっけ? 全て手作り、というのがイベント内の全てというわけではないだろうから、他に何か考えがあるってことだろうか?
「先輩。そういえば、イベントってなにをやるんです?」
 さり気なく聞いてみる。すると、良くぞ聞いてくれましたといわんばかりに先輩達が目を輝かせた。
「んーふーふーふー! 聞きたい? 聞きたい?」
「え? ええと、はい」
 やけに楽しそうな啓先輩。
「いやね、何をやろうか迷っていた時、ふとあたしの中に神が降りてきたんだよ。容姿、接客態度、そして売りとなるメニューを作り上げるパティシエ。どれも引けをとらない人材がうちの部には揃っていると気づいたもんだから、これはもう喫茶店をするしかないと思ったわけ。それで、その中でも格段男子にウケがいいだろうと目をつけたのがナオでね」
「確かに、黒っちの容姿抜群にいいもんねぇ」
 容姿だけはな。でもその実男だなんて、口が裂けてもいえないけど。
「学祭となれば他校、その他の男性陣も多く参加する。そこで、男子にウケがいいだろう梢、ナオ、千夏ちゃんの三人と、女子にウケのいいだろうシアちゃんとに別れて、それぞれの客引きをすれば男女との交流も増えて学祭はより盛り上がるというわけだよ」
 女子にウケがいい部類にはもちろん啓先輩も含まれるんだろうけど、自覚ないんだろうな、この人。まぁ、学内のプリンス&プリンセスが喫茶店をやるとなれば、それだけで話題は十分広がり宣伝効果も抜群だろう。
 となると、女子のお客は心配することもないだろうが、そうすると一般客の男共が問題になるわけか。
 そこで学内でも飛びぬけてビジュアルのいいこの三人に男性の客寄せをさせるという寸法。考えますな、啓先輩。
「でもただ客寄せをするだけじゃおもしろくないし話題性が無い。そ・こ・で! 三人にはメイドとなってご主人様に仕えていただきますっ」
「はぁっ!?」
「それって今流行のメイド喫茶?」
「ノンノン。あたし達が目指すのはもっと本格的なもの。テーマは西洋貴族に仕える従者。本格的な紅茶とお菓子を用意し、三人にはメイド、あたしとシアちゃんは執事としてお嬢様&ご主人様を迎えるという格式ある喫茶店をやろうと思うわけ」
「そ、それは本格的」
「だから部屋の様式もゴージャスにね。それら全部手作りで。いかにして貴族のようなお屋敷の雰囲気を作り出せるか。君達の腕が問われる場でもあるのだよ」
 作品の中での喫茶店。テーマに沿った作品を仕上げ、それを生かす場を作る。確かに、これはあたし達にとってもお客にとっても面白いかもしれない。
「面白そうだね!」
 千夏も有無は無いのか、逆に食いついてきた。あたしも相手をするのが女子なら何の問題もないし。
「全員意見一致でオーケー? じゃ、今晩でも早速会議開こうか」
「あ、それだったら家に集まって夕飯でも食べながらやるのはどうです?」
「いいね、それ! 決まりっ」
「今日はバイトも早く終われるし、シアちゃんの家が一番集まりやすいものね」
「じゃぁ、夕方六時、シーちゃん家に集合だね」
 それぞれ了解の仕草をし、一時解散となった。

「つかそれ、アタシ男の相手……?」

 なぁんて嫌な汗をかきながら抗議することもできず肩を落としていたナオのことは、誰も気に留めることなく。


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