2/開かれし会合、故に





「ところで、喫茶店をやるにあたって許可は下りてるんですか?」
 夕食の片づけを終え、それぞれ寛いでいた先輩達に問いかける。隅の方でいじけているナオはあえてほっとくとして。
「許可?」
「学祭で催しごとするには、それなりに申請手続きとか必要でしょう? まずは顧問に確認とって、それから……」
「顧問にならもう話しは通してあるわよ?」
「え? もう話ついてるんですか?」
 やることが早いなぁ、この人達。
「それに、学会の人達には啓がお願いすれば絶対オーケーだもの。何の心配も要らないわ」
 学会とは、学校内での催しごとを取り仕切る、いわば生徒会のようなものだ。
 というか、ここまでプリンスの力は及んでいるのか。
「うーんと……部屋の雰囲気はこんなかんじでいいかなぁ?」
 夕飯の間もずっとスケッチブックと睨めっこをしていた千夏が、満足げにそれを示して見せた。思わず感嘆するほど緻密に描かれた部屋の理想図に全員が息を止めたのはいうまでもない。
「す、すごい。千夏、画家になれるよ」
 リアルすぎないか。予想図にしておくには勿体無い。
「へへ、ありがとぉ。絵を描くのは好きなの。ちなみに衣装もデザインしてみたんだけど、どうかな?」
 手渡された用紙にまたも動きが止まる。
 あたしと啓先輩はもちろんスーツ。しかし、想像していたものとは異なり、メイド服も酷くシンプルなことに軽く驚いた。
 裾の長いスカートと控えめに着いたフリルのエプロンにカチューシャ。黒と白の絶妙なコントラス。シンプルといえど、上品さかつ気品を漂わせるバランスの取れたデザインは見ていて飽きを感じさせない。
「いい感じね」
「確かに。イメージピッタリだ」
「気に入ってもらえてよかったぁ。質素すぎかなぁとも思ったんだけど、メイドを売りにするわけじゃなくて、あくまでそれは雰囲気作りの要素に過ぎないから目立ちすぎてもダメだと思って」
「その通り。あたし達が目指すのはまさに貴族のティータイム!」
 品良く、格高くがテーマである以上、そのイメージを壊す衣装はNGだ。
「何かますます楽しみになってきたね、シーちゃん」
「そうね。女の子の相手をするのも楽しそうだし」
「……いいよな、シアは。アタシも女の子相手がよかった」
 そこでようやく灰モードになっていたナオが現世に帰ってきた。いじいじと床にのの字を書きながら恨めしそうにあたしを見る奴の顔がウザイ。
「そんなに嫌? 女子大だから男子との交流なんて滅多にない機会だよ? ナオなら絶対喜ぶと思ったのになぁ」
 まぁ、本人が男ですからね。男との交流といわれても手放しで喜べることじゃないでしょうよ。
 相手がナオのことを女として見て接してくるなら尚更煩わしいだけだろう。それでなくてもこの半年で何度となくナンパされてりゃ、余計に。
 えぇ、そりゃもう、女であるあたしの立場がないくらい。
「できれば女の子相手の方が嬉しい」
「それは無理よ、ナオちゃん。女子の相手は啓とシアちゃんで事足りるもの」
「殆ど啓先輩が相手してそうですけどね」
「あら、シアちゃんもしかして気づいてないのかしら?」
 へ? 気づいてないって何にですか。梢先輩の意図が解らず、首を傾げる。
「貴女も相当女子から人気があるのよ? 真っ直ぐで力強い眼差しと頼りがいのあるお姉様キャラとしてそれぞれ女子のファンを増殖させつつあるわ」
「お、お姉様キャラ……?」
 何それ……確かに頼られるのは嫌いじゃないし、むしろ嬉しいけど、何だってそんなことに?
「容姿も問題ないし背も高いから、スーツだって似合うわ。男装なんかしたらそれこそファンはもっと増えるでしょうね」
 まぁ、男物のスーツを着こなす自信はある。高校の文化祭でも演劇は常に男役だった。
「啓と並べば絵になるわ。女性客は貴方達だけで十分客寄せできるもの。言ってしまえばいるだけでいいのだから」
 ホントにぶっちゃけますね、梢先輩。
 でもそれは先輩にも言えることだと思う。目の前にいてニッコリ笑っていれば、男は黙ってついてくるだろうし。
「あ、でも千夏は」
 そういえば彼氏がいるのに大丈夫なんだろうか? 当然学祭となれば橘 壱もくるだろうし。
「え? わたしがどうかした?」
 唐突に自分の名が出たことに反応して顔を上げる。キョトンとした表情がまたなんとも可愛らしくて癒されるなぁ。
「学園祭には橘君もくるんでしょ? イベントとはいえ、あんまりいい気分はしないんじゃない?」
「あ、それは大丈夫。だって私、キッチン担当するから」
「え?」
「千夏ちゃんには、パティシエをお願いしてるの。お菓子作りに徹してもらわないといけないから、ホールに出るのは実質四人なの。だから、メイドチームにはどうしてもナオちゃんが必要なのよ。流石に私一人では相手しきれないもの」
 にゃ、にゃるほど……そっか、一人は厨房にいないといけないよね。喫茶店だし。
「そういうわけだから、逃がさないわよ?」
 語尾にハートマークが見えたのにもかかわらず、殺気も感じ取ったのはあたしの勘違いなのかしら。ナオはまさに蛇に睨まれたカエルの如く逃げ道なしな立場に追いやられていた。
「それで、話を戻しますけど、教室とかはどこを借りる予定なんですか? 西洋貴族の屋敷だったら調度品とかもそろえないといけないし、まさかそれも作るなんてこといいませんよね?」
 流石に家具や置物なんか作れない。
「まさかぁ。そういうのは全部あたし達が用意するから心配要らないよ。部屋は多目的辺りを借りようかと思ってる。それなりに広さがあって、教室内のものを運び出せるのはあそこくらいだからね」
「なるほど。でも、調度品を用意するって……本格的なものをそろえるとなればお金もかかりますし、どうやって?」
 紅茶の葉だって高級品となると結構なお値段するし、家はどっちかというと和が専門だからお茶は用意できても紅茶はちょっと専門外だしなぁ。
 調度品となれば尚更だ。学園祭の予算だって限られてるだろうし、もしかしなくてもこの企画穴だらけなんでは!?
「心配しなくても、調度品も紅茶もタダで調達できるから大丈夫だよ」
「タダ!? どうやって!?」
「家の親父が家具とかの輸入会社に勤めてるから、ツテで貸してもらえるよ」
 いや、一介の会社員がそんなことできるわけないじゃないですか、先輩……それに借り物に傷でもつけたらどうするんです。
「それは、ちょっと、無理なんじゃないかと」
「え? 平気平気。梢が頼めば家の親父は何でも言うこと聞くから」
 どんな父親だよ、なんて突っ込みは口が裂けたってできないけど、梢先輩、やっぱり恐ろしい人。
「紅茶の方は、母に言えばいいものをそろえてくれると思うから、そっちも心配要らないわ」
 えーと……? 一体先輩方のご両親は何者? アンティークは物によってものすごく高いのに、そんなの無償で貸してくれたり、お客分の紅茶を用意するのだって相当量がいるだろうし、本来なら集めるのに相当な高額をはたくことはあっても、タダでそろえられるものじゃない。
 おまけにお菓子も作るとなれば、相当出費がかさむのでは……大丈夫なんだろうか。
「あ、千夏ちゃん。メニューの方もお願いするわね」
「リョーカイです。皆にもできそうなもので、見た目も味も引けをとらないレシピを考えますね」
 不安に思うも、話はどんどん進んでいく。まぁ、いいか。調達分は先輩達に任せるとしよう。
「そうすると、あとは千夏ちゃんが考えてくれた予想図を基にそれをどう再現するか、だね。家具とかはなるたけ似通ったものを親父に頼んでおくとして、絨毯とか食器もいるな。あぁ、シャンデリアをつるすのもいいね」
 そのシャンデリアもまさか調達してくる気じゃ……
「おじ様には頑張ってもらわないといけないわね、啓」
「そうだなー。後、紅茶の種類はどれくらいそろえる? 飲む人の好みを考えて、アッサム、ダージリン、ニルギリ、キャンディくらいは揃えておきたいね」
「コーヒーは? 男性は紅茶よりもコーヒーの方を好むんじゃないかしら?」
「あたしコーヒー飲めないからそれは梢に任せる。モカとかキリマンジャロとかでいいんじゃない?」
 啓先輩、興味ないことはホントにどうでもいいんですね。紅茶の種類を挙げていた時の顔とまるで違うその面倒くさそうな表情が涙を誘います。
「そうね、私としてはブルーマウンテンとかコロンビアなんかも揃えておきたいわ」
「あとはミルクとジャム、砂糖とレモンくらいを揃えておけばいいかな? ホットとアイス、両方メニューに出すだろ?」
「ええ、もちろん」
 意見しあう二人を余所に、あたしは全く話の内容についていけず呆けるしかなかった。紅茶の種類といわれても、ダージリンとかアッサムくらいしかわかんないし、コーヒーにしてもよくてブルーマウンテンとかくらいしか……っていうか、一々種類とか見て紅茶もコーヒーも飲んでないし、大体殆どがインスタントだし。
「つかぬ事を聞きますが、コーヒーはやっぱり豆から挽くんですか?」
「当然」
 そうなると、専用の器具なんかもいるよね? 一式一体どれくらいかかるんだろ。
「器具の心配なら要らないよ。バイト先のを借りるから。もう話しつけてきたし」
 うふ。もうどんな台詞が飛んできたっておどろかねぇよバカヤロー。そんなことだろうと思ったよ。一瞬でもお金の心配したあたしがバカだったよ。もう一切予算の心配なんてしないよバカァっ!
「ま、手作り以外で必要なものはこれくらいかな? あとは各自で分担してそれぞれ必要なものを期限までに仕上げて、その材料の調達とデザインとかも決めないといけないね」
「衣装の型紙は私がおこすわ」
「お、頼む。あたしはカーテン担当するから」
 カーテンもやっぱり作るんだ。
「じゃぁ、わたしは型紙が出来次第衣服製作に入りまぁす」
「となると必然的にあたしはテーブルクロスやらナプキンやらになるのかな?」
「そうだね。その他の細々したものをお願いできるかな。終わり次第衣装の方手伝ってくれればいいから。あたしもそうするし」
「それじゃぁ、詳細はまた後日にして、今日はこのくらいにしておきましょうか?」
 梢先輩の一言で各々が頷き、別に緊張していたわけでもないが、どこか肩の力を抜いて一息つく。
「それと、明日採寸するから薄着になれる格好できて頂戴ね」
 と、爆弾発言を残し、本日の会議は終了した。


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