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3/究極奥義





「ねぇ、ナオ?」
「何だい、シアさんや」
 早朝。お茶の注がれたコップを片手に、向き合って朝食をとり終えた時分。あたしは、昨晩からずっと気になっていたことを口にする。
「あんた、今日どうする気?」
「……どうしようかねぇ」
 お互い同時に溜息。
「マズイいわよね」
「相当」
 昨晩爆弾発言を残していった梢先輩の言葉が蘇る。
 どんなバカでも、採寸なんてしたら判るに決まってる。ナオが男であることが。それでなくても梢先輩は何かにつけて聡い。
 でもこればっかりはフォローの入れようがないし……
「男にしては細身だけど、やっぱり肩幅とか胸囲とかになると誤魔化せないわよ。うちの母さんは着物姿見ただけであんたのこと男だって見抜いちゃったんだし、はっきりした数字が出るとなると」
 採寸時はどうにかしてあたしが図るようにしても、型紙を起こす時点で出た数字を誤魔化すことができない。でたらめな数字を書けば、出来上がったとき着られないのは言うまでもないだろう。
 あたしが型紙をおこすことができればいいんだけど、こればっかりは経験がないしなぁ。
「どうしよう、シア」
「どうしようって言われてもねぇ。なるようにしかならないというか……いっそばらす?」
「それは俺に退学しろと?」
「冗談よ」
 一瞬それもアリかも、とか思っちゃったけど、流石に可哀想か。
「ま、もうなるようにしかならないか」
「諦め早っ」
「考え込むの苦手なんだよ、俺」
 言われなくても知ってるけどね。でももう少し踏ん張れよ。あんた自身のことなんだからさぁ。
「ここで考え込んでてもしょうがないし、そろそろ行くか?」
「え!? こ、心の準備が……」
「だぁいじょうぶだって! ほら、行くぞシア」
「何を根拠に大丈夫なんていうのよこの口はー!」
 人の気も知らないで、身勝手なことばっかり。
「いひゃ、いひゃい!」
「ったく。どうなってもしらないからね」
 抓るのをやめナオを開放すると、奴は頬を擦りながら情けない声を上げる。
「痛てぇ……そんな怒んなくても、大丈夫だって。上手くやっから」
 何をどう上手くするんだか。っていうか、上手くも下手も、やりようなんてあるわけ?
「心配するべからず。俺に任せときなさい」
 トンッと胸を叩き強気に出るナオ。っていうか、それが一番不安だってことに何で気づかないかなこいつは。
 あたしは一抹の不安を覚えながら、大仰に溜息をついた。


*****


「で? たまに顔を見せにきたと思ったらいきなり頼みごとか?」
 ものすっごく厭そうな顔をしながら、目の前の人物は俺と目も合わさずに書類と睨めっこをしている。
「頼むよ。可愛い弟の頼みじゃん」
「何が可愛い弟だ。貴様、誰のおかげで今の生活があると思ってる。それでいてまだこの私を使うか」
 書類から視線を俺に移し、睨みつけるこの女性こそ、俺の実姉、黒知 冬湖(コクチ トウコ)だ。男のような喋り方と、男以上に男らしい性格の持ち主。
「ちょっとしたアクシデントでさ、俺の正体ばれそうなんだよ」
「もうばれてるだろうが」
「いや、シアにじゃなくて、他の生徒に」
「それで私にメイド服の採寸を代わりにしてこいと?」
「いや、流石にそれはバレるだろ? いくら似てるっていっても」
 兄弟の仲では俺と冬湖が一番似ている。そして両親とも。まぁ、俺がどっちかっていうと女っぽい顔してるせいもあるんだろうけど、ホントに女である冬湖のその容姿は大抵の男は皆振り返るようなものだ。弟の俺がいうのもなんだけどな。
「ではどうしろと?」
「採寸はうけるよ。で、これと同じのを作って欲しいんだ。できた物と交換するから。これ、デザインと生地と俺の寸法ね」
「……いつまでに」
 非情に面倒くさそうな顔をしながら、渡したメモを受けって、冬湖が尋ねる。どうやら協力してくれるらしい。
「とりあえず学園祭前日くらいまで、かな」
「いいだろう。手配しておく」
「あ、それと製法はそれなりにしておいてくれよ? あんまり完璧にできたやつだと逆に目立つから」
 何気なく言った言葉だった。だけど、それが冬湖の癇に障ったらしい。ギロリと容赦なく睨みつけられ、大げさに溜息をつかれた。
「貴様、あの二人の実力をなめているだろう。相楽 啓及び幹枝 梢。両者ともその技術は最早プロ並だ。下手に手を抜いた衣装を用意したとあっては、そちらの方が逆に目立つことになるぞ」
「え? 二人ってそんなにすごいの?」
「すごいなんてレベルじゃない。彼女達は知識だけじゃなく、プロが認める技術をもっている実力派だ」
 冬湖が他人を褒めるなんてことは滅多にない。あるとすれば、彼女が認めた相手だけ。ということは、あの二人は大物ってことだ。
「だから、人数がいないのにあの部は廃部にならない。価値があるからな」
「あぁ、それで」
 前に廃部にならない理由を聞いたことがあった。その時ははぐらかされたけど、妙に納得といった感じか。冬湖は何より結果を重視する。過程ではなく結果を。俺は過程も大事だと思うんだが、冬湖はそんなに甘くない。結果さえだせば、人数など取るに足らないことなのだ。
「しっかし、相変わらず手厳しいのな」
「今頃知ったのか?」
 嫌味っぽく言われ、俺は苦笑いを浮かべておいた。それから話題を元に戻す。
「ま、あとは冬湖に任せるよ。頼んだ」
「不本意だが仕方ない」
 メモ用紙をスケジュール帳に挟み、机の隅におくと、冬湖は邪魔者を追い払うような仕草で手を払った。
「さぁ、用が済んだなら出て行け。私はお前のように暇じゃないんだ」
「酷い扱い。はいはい、さっさと退散しますよ」
 ちぇっ。久々に会いにきてやったのになんて酷い扱いなんだ。まぁ、いつものことだし、今更優しくされても気味が悪いけどな。
「ありがとな、冬湖」
 でもまぁ、一応筋は通しておかないと。部屋を出る直前素直に告げると、冬湖は相変わらず書類に目を向けたまま軽く手を振った。
 そのあまりにも冬湖らしい態度に思わず苦笑が浮かび、そのまま部屋を出る。

 『理事長室』と書かれた大きな扉のそびえるその一室を。


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