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2/オトコ



 一度家に帰って荷物をまとめてくると言って、ナルちゃんとは校門前で別れた。
 もともとナルちゃんとは学校をはさんで家が正反対の位置にあるし、あたしは家から学校まで徒歩数十分という距離だが、ナルちゃんは電車で十五分というところから通っているのだ。
 それを知っていながら突然お泊りなんかに誘うなよって感じだけど、しょうがないじゃん。
 あたしだってテンパッてんだからさ。
 例のタマゴ。
 授業中も神経尖らして何も変化がないかと見守っていたが、どうやら今のところ何もないらしく、無事に終わった。
 とぼとぼと帰路につきながら、あたしは今後のことをしばし考えてみた。
 もしタマゴが孵ったらどうしよう。中から何が生まれてくるんだろう。
 あわよくば新鮮な生卵であってほしいが……って、今それは横に置いておいて、実際問題、変な生き物とか出てきたらどうしよう。
 なんか新種の生き物とか。珍獣みたいな?
 でも、そんなことで有名になってもなんか嬉しくないしなぁ。ってそんなわけはないか。
 あたしは小さく溜息をつき、早くも自宅にご到着。
 ナルちゃんがくるまでの間、少し部屋を片付けておこうと掃除を始めることにした。
 荷物を置いて、私服に着替えて、例のタマゴを机の上において。
 よし。それではお掃除開始って時に、タイミングよく玄関のチャイムが鳴った。
「え? ナルちゃんもうきたの?」
 にしては早すぎる気がするが。思いながら玄関のドアを開けて、あたしは思わず固まってしまった。
 長身。
 第一印象はそれだった。
 首が痛くなるくらい頭を上げないと、顔が見えないほど背が高い。もともとあたしは背が低い方だけど、それでも2mくらいあるんじゃないかって錯覚できるくらい、玄関前に立ってるその人物は背が高かった。
 だから凄い迫力。スゴイ圧力かけられてるみたい。完全にあたしは見下ろされてるわけだし。
「あ、あの……?」
 どちら様ですか、って最後までいえないほど、あたしは恐縮しまくっていた。
 何も悪いことなんてしてないけど、おまわりさんに声かけられてつい謝ってしまいそうなくらいの心境だ。
『お前か』
 その人は一言、低い声で言った。
 男だ。長身の男。あたしの目の前にいる彼は、全身黒尽くめで無表情に無造作にそこに立っている。
 顔は何だか日本人離れしたようなキレイな容姿で、つい見とれてしまっていたくらいだ。
「えっと」
 それでもなんで「お前か」なんていわれたのかよくわかんなくて、首を傾げてみた。
 あたしはこんなかっちょいい男の人と知り合いではない。それに、こんな印象強い人見てれば、絶対覚えてるはずだし。
『あいつはどうした。お前はあいつの羽根なのだろう?』
「は?」
 それでも彼は勝手に話を進め、あたしに問う。
 てか、あいつ? 羽根? 誰それ、何それ。いや、羽根といえば鳥とかの羽根だろうが、でもあたし鳥なんて飼ってないし、ましてや羽根コレクターでもない。しかもあいつって誰よ?
「羽根とかあいつって……何のことですか?」
 ますますわかんなくって、あたしは聞き返した。ていうか、いいかげんこの人は誰だ? あたしは彼の台詞よりも彼自身のことが気になって仕方なかった。
 だってこんな美青年、滅多にお目にかかれないし。ちょっと目の保養、なんて思ってみたりして。
「あの、あなたは……?」
『そんなことはどうでもいい。お前が羽なら、回収する』
 しかし、彼はあっさりとあたしの質問を流し、自分の質問を重ねる。
 というより、強引に話を進めている感じだ。
「羽根って、なんですか? あたし、そんなもの持ってない」
『嘘をつくな。お前から力の気配がする。……いや、お前はまだ……そうか、では虚(カラ)をもっているだろう。それを出せ。大人しく出せば命までは取らない』
 はいぃぃ?
 何言ってんのこの人?
 まだとか、そうかとか、虚とかって……
 しかも命までは取らないとか……1回言ってみたい台詞だ。とかアホなこと考えてる場合じゃない。
 この人、基本的に何かがおかしい。何かの宗教とか? 勧誘? それともカツアゲ!?
 うわ、その可能性大って感じ?
 何せ虚を出せ、って無理やり奪い取るって感じの台詞だし。金出せよ、みたいな?
 あぁ、どうしよう。家にはあたし以外誰もいないのに……顔に騙されると大変なことになるって、以後よぉーく肝に銘じておこう。
 ていうか、こういう時はどうするんだっけ?
 救急車? 消防車? あ、子ども110番ね!?
 て、どれも違うわ!
 とか一人ボケかましてる場合じゃないんだよ切実に。
 警察だよ、警察!
 あたしは思いついて咄嗟に踵を返そうとしたけど、なぜか足がすくんで動けない。薄っすらと掌に汗をかいていることに気づく。
 なんだろう、動いたら凄く危険な感じがする。これって本能ってやつだろうか?
 ぁあ、一体どうすれば……最大のピンチ!
「……ちょっと?」
 そんなピンチの時。聞き覚えのある声。
 長身の男の後ろから、聞きなれた声! まさに天の助け!! ありがとう神様!
「ナルちゃん!」
 待っていたよ、君がくるのを! なんて都合のいい。
「何? 知り合い?」
 ナルちゃんは怪訝そうに彼を見上げ、あたしを見る。あたしはとんでもないといった表情を作って何度も首を横にふった。ちょっと涙なんか浮かべてみて。助けてって感じをかもし出して。
「ちょっとあんた、この子に何の用ですか?」
『貴様には関係ない。早く虚を出せ』
 男はそれで荒療治に出た。
 あたしの腕を掴み、部屋の中に入ろうとする。あたしは咄嗟にそれを食い止めようと必死になって抵抗した。
「痛ッ……!」
 腕はいまだ捕まれたまま。すごい力だ。あたしの腕なんか簡単に折れてしまいそう。どうしよう。このままじゃ、本当に腕の一本くらい折られちゃいそう。
「ちょっと!! 放しなさいよ! 警察呼ぶわよ!?」
 言って、ナルちゃんは携帯を取り出して脅しをかける。その叫び声で近所の人が何事かとぞろぞろと外へ出てきた。
 まさに救世主。
「何? どうしたの!?」
 近所のおばちゃん連中と仲良くてよかった。彼女らはあたしの危機を察すると、ほうきやらバッドやらをどこからか持ってきて、男に威嚇する。
 彼はこれ以上いると事が大きくなると思ったのか、小さく舌打ちして、この場から姿を消した。
 文字通り、姿を消したのだ。
 なんかしんないけど、眼くらましみたいな煙と共に。
「げほっ……何この煙」
 しだいに煙も晴れて、あたしとナルちゃんは顔を見合わせた。お互い無事だと確認すると、同時に苦笑をもらす。
「大丈夫だった?」
「さっきの人誰なの?」
 安堵も束の間、近所のおばちゃんたちの質問攻め。あたしは適当にお礼を言って誤魔化し、その場を凌いだ。
「……にしても、あんたほんっとに危なっかしいな」
 おばちゃん攻めから開放されて玄関に逃げ込んだ矢先に、ナルちゃんが一言あたしに告げた。
 危なっかしいって……あれはあたしのせいじゃないと思うんだけどな。それにしてもなんだったんだろう、あの人……
「すいましぇん」
 あたしは腑に落ちないながらも、心配かけたのは事実なので、ここはひとつしおらしく謝っておくことにする。
 するとナルちゃんはうん、とだけ頷いてそのまま部屋に上がった。





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