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6/マアサ



 世界は一つの魂を三つに分けた
 一つ目は穢れを知らない白の魂
 二つ目は罪を負う黒の魂
 三つ目は、どちらにも染まりうる、色をもたない透明な魂―――――




「聞いてないッ!!!」
 時は真夜中。
 闇に轟く叫び声が一つ。
「なんなのあれ! 何か呪文っていうかなんていうか、変なの唱えたら光がパアァァッて、敵はギャーで、あたしはバタンキューで気がついたら部屋の中はグチャグチャでおまけに真夜中だし!」
 いいながら、やたら擬音語が多いな、とちょっと内心突っ込みを入れつつ、あたしはナインを睨みつけた。
 そうなのだ。気が付くと、あの黒尽くめの男はすでにいなかった。
 後に残ったのは、無残にも全壊した窓ガラスやらぐちゃぐちゃに散らばった家具やらが散乱している部屋だけ。その光景を目の当たりにした時、あたしはやりきれない気持でいっぱいだった。
 考えてもみてよ。
 普段から綺麗に部屋を片付けてる身。それをあんた、よくも知らない悪魔が突然荒らすだけ荒らして、後片付けよろしくーみたいな感じで気が付いたらその姿はない。
 そして残されたあたし。この滅茶苦茶な部屋を誰が片付けるとお思いで?
 あたししかいないじゃん……
 そう思うと、ひどい脱力と怒りが湧き上がってくるのは人として当然だと思う。
 もちろん、片付けさせていただきましたとも。窓はダンボールで何とか塞いで、グチャグチャの室内も綺麗に片付けた。
 悪魔が一人ソファでくつろいでいる中、あたしは奴の下僕かのごとく働かせていただきましたとも!
 だから、さっきから「落ち着け」と宥めようとしているナルちゃんには悪いけど、ちっとも落ち着けやしない。
 なんであたしがナインの尻拭いみたいなことやらなきゃならないのよ。
『だから、契約を結んだ人間は、魔力を封じられた羽根を体内に取り込み、使うことができる。まぁ、その力はほとんどあってないようなものだが。俺の場合は違う。もともと莫大な魔力を有してたんだからな。お前が使える力も半端じゃない』
 やたら誇らしげに言うナイン。
「んなことはどうでもいいのよ! あたしが聞きたいのはその後ッ。力を使えるってところはいいわよ。使わなきゃ害は無いわけだし。でもね、その力を使って敵と戦えって! そんなこときいてない!!」
 あたしの叫び声が頭に響くのか、ナインは耳を掌で塞ぎ、とりあえずあたしの気がおさまるまで辛抱強く待つという戦法にでた。ムカツクッ。
「落ち着きなさいってば」
 しかし、そこで二度目のナルちゃんのストップがかかった。呆れたようにあたしを見ながら、小さく溜息をつく。
「だって……」
「だってじゃないの。とりあえず落ち着きなさいよ」
 強い口調で彼女にそう言われると、あたしは黙るしかない。
 あたしは苛立ちを抑えるために、例の深呼吸法を実践する。やっぱりこれは効果絶大。
『落ち着いたか?』
 ナインに問われ、せっかく落ち着いてきたのに、また害された気分。
 あたしは一瞬ムッとして見せ、しかたなく頷いた。それにナインはちょっとだけ安堵した風だった。
 どうせ嵐は去った、とか思ってるんだろう。
「それで?」
『あ?』
 あたしが問うと、彼は何が? という風なアホ面をかます。
「あ? じゃないでしょうが。それで、あたしが敵と戦わなきゃならない理由は? ていうかなんで敵なんかに狙われなきゃならないのよ」
 納得いかない。
 今まで平穏に暮らしてきたあたしが、何で突然命を狙われるなんて日常に巻き込まれなきゃならないのか。
 確かに契約しちゃったからあとには引き返せないけど。
 でもあれは、あの場を凌げれば何でもいいと思って咄嗟に交わしちゃった契約であって、そもそもあたしの本意じゃない。
『そんなの俺が一番聞きたい。改封魔(カイフウマ)が悪魔に狙われるなんて聞いたこともない』
 ナインは小難しい表情を浮かべる。じゃぁ、ナインにも自分が狙われている理由はわからないのか。
 ……って、あれ?
「改封魔?」
 新たな単語に、あたしは首をかしげた。
『ああ、そういえば言ってなかったっけ。改封魔ってのは、俺のように天使になろうと改心してる悪魔のことだ』
 へぇ。
 いちいち呼び方が決まってるんだ。
 覚えるの面倒くさそう。
『お前にだって別の呼び名があるんだぜ?』
「は?」
 いきなり話をふられて、あたしは何のことかわからず間抜けな声を上げた。
『改封魔のパートナーは、力を得るのと同時に、力を引き出す鍵として称号をつけられる。お前の場合は『魔我鎖(マアサ)』。俺のパートナーとして相応しい称号だよな』
 へ?
 まあさ?
 称号? 相応しい? なんじゃそりゃ。
「ちょっと待って。意味がわかんないんだけど」
『つまり、さっきお前は自分で『魔我鎖』って叫んだだろ?』
「うん」
『あれがお前の称号名なんだよ。そんで、力を使うための、まぁ、平たくいえば呪文ってところだな』
 な、なるほど。呪文か。
「それは解ったけど、何であんたに相応しいのよ」
 一体何様のつもりだこいつ。さっきからえらく態度でかいし、生意気だしさ。
『『魔我鎖』は改封魔責任者のトップの称号、ネームだ。つまり、一番力のある羽根のことだ。あ、羽根っていうのは改封魔のパートナーになった人間の呼び方のことな。 で、だから『魔我鎖』のネームを持つお前は俺に相応しいんだよ』
 え、え?
 何か話が複雑でよくわからない。が、
 天使に改心したい悪魔の呼び名が『改封魔』。人名で上げるとナインのこと。
 んで、その改封魔のパートナーになった人間の呼び名が『羽根』。羽根の別名が『改封魔責任者』。つまり、あたし。
 そして羽根には使える力の階級みたいなもんがあって、そのトップに立つのが『魔我鎖』。あたしはこのネームをもらった、と。整理するとこういうこと?
「うん。何となく解った。解ったけどさ、一つどうしても解らないことがあるんだけど?」
『なんだ?』
「あたしが『魔我鎖』ってことは解った。それが一番力が強いってことも。でもさ、何でそれがあんたに相応しいってことにつながるのよ」
『あ? いいか? お前が取り込んだ魔力は元を正せば俺の魔力だろう? 羽根のネームは俺の魔力の凄さをあらわしてるんだよ。 力が強ければ強いほど羽根のネームは上がる。そんで、俺の羽根のネームが一番上の『魔我鎖』だ。つまり、それは俺がいかに魔力の高い悪魔だったかを示しているわけ』
 つまり……
「あたしのネームのランクが高いことは、ナインにとっては名誉なことなわけ?」
『そういうこと。『魔我鎖』のネームを得るものなんてそうそう出ない。そこらへんの悪魔よりよっぽど強いからな。 まぁ、改封魔に手を出す悪魔なんか聞いたことないから、実際はどうか分からないが……だから今回は何かおかしいというか』
 そうか、もともとなんで狙われているのかを話してたんだっけ。
『そういえば』
 ふと何かを思い出したような口調に、あたしは小首を傾げる。
『お前の名前、まだ聞いてなかった』
 言われて、あたしもあっ、と声上げる。そういえば言ってなかった気がする。ていうか、ここまで主人公の名前が出てこないってどうなの。
「そういえばそうだった。あたしは、まあさ」
『……魔我鎖って、それはネームだろ? 俺が聞いてるのはお前自身の名前だって』
 呆れたようにいうナインに、あたしはカチンときた。
「だから! いい? 耳の穴よくかっぽじって聞きなさいよ!? あたしの名前はまあさ! フルネームは宝永まあさ(トミナガ マアサ)! 称号名じゃない。あたし自身の名前も、まあさなんだってばっ」
 何で呆れられなきゃならないのよ。ちゃんと自分の名前言ってんのにさ。
 あたしが力説すると、ナインはきょとんとしてあたしを見遣る。まだよく解っていないらしい。
『え? つまり、お前の本名も、ネームも、おなじマアサ?』
「そうよ。あたしの本名はひらがなだけど」
『まあさ……』
 心底驚いているらしい。あたしの名前を呟きながら、まだ納得しきれない表情を浮かべている。
「ていうか、あたしは自分の名前とネームって同じものなんだと思ってた」
 だって、頭の中に響いた声は、名前を言えっていっていたから。だからあたしは、あの時素直に自分の名前を叫んだのだ。
 けれど、ナインの驚きぶりといい、さっきの説明といい、どうやら違うらしい。たまたま、あたしの名前とあたしに付いたネームが同じだったとうことなんだろう。
 こういう偶然って、ホントにあるんだ、ってあたしは一人感心した。
「そういう偶然ってあるのねぇ」
 ナルちゃんもどうやら同じことを考えていたらしい。ボソリと呟く。
『ホントにな』
 ナインもうんうんと、やたら深く頷き同感していた。どうでもいいけど、あんたがそんなに感心するってどうなわけ?
「なんかテキトウっぽいのよねぇ」
 あたしは思わず零していた。名前のことはともかく、敵に狙われているのにやけに暢気だし。
『何がテキトウなんだ?』
「あんたの考えが」
『俺!? ちょっと待てよ。テキトウなんかじゃないぞ。俺は真面目にだなぁ……』
「はいはい。真面目なんて言っても、全然真面目っぽく聞こえないし見えないのよ。だいたいさぁ、あんた自分が狙われてるって自覚あんの?」
 ズバリ指摘すると、奴はうっ、と言葉に詰まった。ほれ見てみろ。やっぱ真面目に考えてないじゃない。
 どうせどうにかなるか、なんて浅いこと考えてたに決まってる。
『で、でも! 狙われてるのは俺じゃねぇもん!』
「はぁぁ?」
 狙われてるのがお前じゃなきゃ、一体あの悪魔サンは誰を狙ったっていうのよ。
 とうとう現実逃避し始めたのか?
『あいつは俺の魔力が封印された羽根を狙っていた。つまり、俺の魔力を取り込んだお前が、次から狙われるってことだ』
 へぇ。そうか、あたしが……
「……って、何いぃぃぃッ!!?」
 ちょっと待てぇ。すっごく待て!
 それこそ聞いてないわよ! 何なの、あたしが狙われてるって。どう考えたってありえないじゃん! 不公平じゃん! 納得できないじゃん!!
 何であたしだけ?
 ナインじゃなくて? あたし?
 なにそれ!
『……だからいいたくなかったのに』
 奴はボソリと零す。
 聞こえないと思ったら大間違いだぞこの野郎。つまりこいつ、解っててあたしにいわなかったってことだ。
 あたしがヒステリー起こすって分かってて。ああ、起こすとも。
 こうなりゃばっちし吠えまくってやる!
< 「もぉ、アンタなんかしらないっ! あたしは全て拒否する! 協力もしないし家にも置いてやんないから!!」
 頭きた。
 何なのこいつ。
 頭に血がのぼりすぎてわけわかんなくなってきた! 誰のせいだよ、ムカツクなぁ!
 あたし普段他人にキレることなんて滅多にないのに。平和主義者なのに。
 何だか今回ばかりは、いや、こいつの存在自体が生理的に受け付けないんだ。今なら瓦十枚くらい簡単に割れそうだよ、いやホントまじで。
「あんた今日はよく吠えるわねぇ」
 そんな中、ほのぼのとナルちゃんが感心の声を上げる。んな暢気な。
 ていうかまるっきり人事口調だよね……
「まぁ、いいじゃないの。もう契約しちゃったんでしょ? 一度決まったことはやり通さなきゃ」
 ナルちゃんがやたら嬉しそうににんまり笑っていう。確かにそうだけど。
 でもこれはそれとは次元が別っていうか、モノには限度ってものがあるっていうか……
「……なんか喜んでない?」
 暇を持て余していた子どもが、興味深いおもちゃを見つけて喜んでいるように見えるのは、果たしてあたしだけなんだろうか。
「まぁまぁ。こうなったら覚悟を決めるしかないんじゃない? 諦めて全てを受け入れなさいよ」
「何かナルちゃん都合よくない? そんなに話を進めたいわけ?」
「あら? あたしが進めなくったって、勝手に進みそうじゃないの。あたしはただより一層面白くしたいだけ」
 それって白状。
 あたしの意思は?
 あたしの意見の尊重は?
 あたしにはもはや選択する権利もないの? 悩む時間も与えられないわけ?
 それってあんまりじゃない?
「ここまできたら、なるようにしかならないわよ」
 にこりと笑って、ナルちゃんは言い切った。





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