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7/ナミダ



 誰にだって泣きたい時はある。
 その泣きたい理由から、どうやっても逃れられなくとも。
 ただ純粋に、嘆きたい。そう思うことはあるはずだ。
 あたしはその気持ち、よく解る。何たって、今まさにあたしがそういう時であるから。
『おい! まあさ!? おいってばッ! 何で鍵かけるんだよ!』
 ナインがドアを叩く。
 あたしは一人部屋にこもって虚しく頑固に現実を否定していた。
 完璧無視を決め込むことにしたのだ。
「いいの?」
 かけてくる声。
 訂正。一人じゃなかった。二人だ。
 目の前で、ちょっと哀れな生き物でも見るかのような視線をあたしに向けている彼女、ナルちゃんがいたんだった。
「そんなに拒絶することもないんじゃないの?」
 哀れんでいるのか、それとも呆れているのか。ナルちゃんはあたしにそう問う。
 悪いが拒絶もしたくなる。あんないい加減な奴と、はっきりいって付き合っていく自信なんてない。
 狙われているのが自分のパートナーでも、自分には命の危険がないことを知ってあんな風にのほほんとしている奴の協力なんか、あたしは絶対してやらない。悪いけど、あたしはそこまで寛大じゃない。
「……あんな奴、知らない。あたしは絶対協力なんてしない」
 もう叫ぶ気力も、それだけの怒りも通り越した。
 馬鹿みたい。
「彼だって悪気があったわけじゃないんだから。悪魔なんだからしょうがないじゃない」
「モノには限度ってものがあるじゃない。悪魔にしたって酷すぎるよ。今は……顔を見るのも厭」
 悪魔の限度なんて知らないけど。
 あたしは抱いていたクッションに顔をうずめる。
 何だか妙に泣けてきて、思わず苦笑してしまった。
 だって、あんな奴のことで涙流すなんて。そんな無駄な労力使うのも勿体無い。
 だけど。滲みあがってきた涙は静かに流れていった。とめることも面倒で、あたしはそのまま静かに泣いた。
「まあさ……」
 ナルちゃんも察したのだろう。それ以上何もいわなかった。
 ムカツク。
 あんな奴に傷つくなんて。
 こんなことで泣いてしまうなんて。
 なるようにしかならないって、ナルちゃんは言ったけど、あたしはそれを受け入れたくない。
 結果はわかっている。
 結局は協力せざるを得ないこと。
 契約を交わしてしまった以上、いや、それよりもっとまえから、彼を受け入れるしかないってことは解っているのだ。
 だけど、あたしはそこまで大人じゃないし、聞きわけがいい方でもない。
 所詮はわがままなだけの子どもだ。
 そんな奴に、感情を殺して黙って協力するなんて器用なことはできやしないのだ。
 簡単に受け入れるなんて無理。
 なるようにしかならなくても、拒んでしまうよ、こんなの。
 一度は受け入れたけど。
 でもあたしは、あんな風にあいつの駒としてしか見られていないことが、切なかった。
 そりゃ誰だって他人より自分の方がかわいいだろうよ。だけど、ああもあからさまに人を盾にされて、あたしは黙ってなんていられない。
 傷つかないわけがない。っていうか結局あいつの思うままに事が運ぶのが厭なのだ。
 だいたい悪魔なら何をしても許されるなんて、そんなのあたしは認めない。
 こんなの、良い悪いを教える以前の問題だ。
 根本的に違いすぎているのだ、考え方が。言葉の通じない奴に、芸を仕込むようなものだ。
 最初から無理に決まってる。
「なぁんでこんなことに……」
 なっちゃったんだろ。
 いくらため息ついたって、後悔したって起こってしまったことはもうどうにもならないけど。
 過去は変えられないけど。
 あたしの人生最大の過ちは、きっとあのタマゴを拾ってしまったことだ。
「まあさ。そんなに不貞腐れなくても」
 ナルちゃんはいう。
 何を言っても無駄なのはきっと彼女もわかっているだろう。
 それでも、ナルちゃんの性格上、何も言わずには居れないのだ。
 沈黙よりも、静寂よりも、何か音があった方がきっと辛くない。
 誰かの言葉があるだけで乗り越えられることもあることを、ナルちゃんは知っているから。
 励みになることを、彼女は承知しているから。
「……うん」
 葛藤は続くけど。でも、きっと楽になる。
 この苛立ちも、悔しさも、後悔も、今ある感情全てが普通値に戻れるように。
 今はしっかり後悔しとこう。飽きるくらいに。
 めいっぱいナインの悪口言いまくって、スッキリしよう。
 ほら、道端でたむろするおばさん連中のように。あらやだ奥さん聞きました?
 なぁんていいながら、ね。
 あたしは想像して、小さな笑みを零した。





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