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8/ケンカ



 分かれた魂はそれぞれの役目についた
 白の魂は色をなくして新たな命の器に入り
 黒の魂は望めば強大な力を得られる
 そして
 透明な魂は、どちらかの色をつけた魂の器を、幾度も滅ぼしていった……




 三日が過ぎた。
 たった三日、と思う人もいるかもしれない。でも、その三日間、あたしにとっては地獄のような日々が続いた。
「だからさっきから言ってんでしょ!? 何度いえば解るのよ!」
『聞いたけどわっかんねぇよ、こんなの! お前の教え方が悪いんだッ!』
「はぁ!? あんた何様よ! 習う立場のくせして! ちったぁ、あたしに頭下げたらどうなの!? 教えてくれるのがあたりまえみたいな顔して!」
 あたしは一喝する。
 そうなのだ。この男。やる気も何もあったものじゃない。あたしが言わないとやろうとしないし、あたしがこいつに一般常識を教えるのは当たり前と思いこんでいるのに加え、態度だけは一人前にえばりまくり。 見ていて一番腹の立つタイプだ。何もできないくせに、いうことだけはいっちょ前!
「だいたいねぇ! 教えるも何もないのよ! 歯磨き粉のフタは使ったらちゃんと閉める! 言われなくたってわかるでしょうが、こんなの!!」
 あたしは一体何をやっているんだろ。こんな、歯磨き粉云々で怒鳴るような毎日。会話自体が低レベルなことに、早く気づいてくれ。頼むから。
『閉めるったって……どれがフタで、どっちに回すのかわかんねぇだよ』
「これよ! これがフタよ! そんで回すんじゃなくてはめ込むの! カチッて音が鳴ったらフタが閉まった証拠! 前にも説明したでしょ!?」
 何でこんな簡単なことが解らないの? あたしはヒステリーに似た叫び声を上げた。
 いちいち面倒で、いちいちあたしを怒らせるような行動をとるナインに、ほとほと苛立っていた。胃のあたりがキリキリする。
 このままでは胃潰瘍にでもなりかねない。そうなったらマジしゃれにならないよ。
『え? そうなのか? ……あ、ホントだ』
 あはは、とカラ笑いしながら、奴はフタを開けて閉める。
 あははじゃねぇよ、畜生! それを教えるためにあたしは何本磨き粉をダメにしたと思ってんだ!
 フタの開け方がわからなくて握りつぶして一本目。
 フタの開け方が解ると、チューブ状になってでてくるのが面白かったのか、中の歯磨きを全部出して遊んで二本目。
 二本目の事件の後、怒られて少しは反省したかと思えば、今度はフタを閉め忘れて次の日乾いた歯磨き粉を見つけ、それが何か気に入ったのか、中のチューブを乾かすために火であぶろうとして誤って放火して三本目。
 そして今にいたる!
 三本だ。三本の尊い歯磨き粉を犠牲にしてやっと! やっとフタの開け閉めを覚えたんだこいつは。 いや、そもそもフタを閉めるという概念すらなかったに違いない。あたしはナインを横目で睨みながら、小さく溜息を落とした。
 歯磨き粉って何気に結構なお値段がするのよ。家計だって厳しいのよ。あんたのために無駄になっていった歯磨き粉の代金返してよぉ!
『これってフタだったんだなぁ』
 奴の一言。だから最初からそういってるのに……やっぱりこいつにはフタと認識されてなかったらしい。そりゃ開け方も解らなければ閉め方もわかんないよね。
 あはは、納得ー……
「……なぁんて言うと思ったかこのおバカぁ!」
 なんだこのお約束な展開は!
 人間なめるのも大概しとけよ、こん畜生ッ!
『うおっ!?』
 あたしはちゃぶ台をひっくり返すくらいの勢いで言い放つ。ナインはあたしの形相に驚いて一歩身を引いた。
「あんたねぇ、ふざけるのもいい加減にしないと、そろそろ本気でただじゃおかないわよ」
 胃が痛い。
 頭痛もする。
 ついでに叫びすぎて喉も痛い。
 ダメだ。こいつを天使に改心させるどころか、常識を教える時点であたしがくたばりそうだ。情けない。まさかここまで事を知らないとは。
『だってよー。いちいち決まりなんかがあって面倒だし、覚えてられないって』
 そして一番情けないのは奴のこの台詞。
 ホントにお前は天使に改心する気があるのか?
 そのうちやるっていう感じで中途半端にやり過ごしているように思えてならない。
「毎日やっていけばそのうち習慣になるわよ! 無意識に身体が覚える! とにかくまずは歯磨き粉のフタを閉めることから覚えなさい! あと、お風呂も入った後はフタを閉める!」
『フタフタって……そればっかりだな』
「文句言わずにやる! わかった!?」
 文句は一切聞かない。あたしはナインの胸倉を掴んで睨みつけると、奴は引きつった笑みを浮かべて素直に頷いた。
 そうそう。いつもそうやって素直に頷けばいいのよ。そうすりゃ無駄な言い合いもしなくて済むんだから。
「さてと。そろそろ時間だ」
 あたしは時計を確認し、支度を始めた。
『時間? なんかあんのか?』
「あんたねぇ……学校よ、学校! 毎日行ってるでしょ!?」
『あ、そっか。そういやいつも朝になると、どっかに出かけてるもんな』
 思い出したように手を打つナイン。そっかじゃないよ。あんたがうちに来てから三日経つんだよ? 悪魔に襲われた次の日だって、毎日休まずあたし学校に行ってるじゃん!
『なぁ、どこ行ってんの?』
「は!? だから学校だってば!」
 体質が夜行性なのか、ナインは午前はずっと家で眠っていた。そのかわり夜になると煩いほどあたしにちょっかいを出してくるから、ここ最近寝不足で仕方ない。眼を放すと何をしだすかわからないから、安易に眠れないのだ。
 おかげで授業中は爆睡。見事に勉強も出遅れたし。ただでさえ頭悪いのに……
『学校って何だ?』
「何って、勉強するところよ」
『勉強? 何それ、面白いのか?』
 はぁぁ!? そんなところから教えないといけないの!?
「あのねぇ! 悪いけど時間ないのよ! 急いでんの! 説明は帰ってからにして!」
 もう家を出ないとヤバイのよ! 遅刻しちゃうのよ!
 あたしは叫んで、玄関の扉を開ける。出ようとして、はたと後ろを振り返った。
「いーい? ちゃんとおとなしくしてなさいよ!? 家から出ちゃダメだからね!!」
 珍しく朝から起きてるから、一人で留守番させるのが心配だったけど、仕方ない。あたしは学校に行かなきゃならないし、連れて行くわけにも行かないんだから。
 ナインにきつーく言い聞かせて、あたしは即効家を後にした。
 その時、にんまりと笑ったナインに気づかずに……





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