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9/ヒゲキ



 滅んだ器の数は知れず
 けれど魂は幾度となく器を求めた
 生まれくる器の意味はどこにあるのか
 魂は、なぜ色を得るのか……




「朝から疲れてるねぇ」
 興味深げに、ナルちゃんがあたしを突付く。
「また喧嘩になったんだ?」
 確信しているのだろう、それでも一応疑問符をつけているところが彼女らしい。
「そうだよ。そうですよ。またケンカしたんですよーだ」
「そんなムキにならなくても」
 言いながら、ナルちゃんは苦笑した。
「だって! あぁー……もぉ、いやぁぁぁ」
 朝の出来事を説明しようとして、面倒くさくなってやめた。 あたしは机に突っ伏して、唸る。
「だって、何よ? 面倒くさがらずに報告なさい」
 ナルちゃんがあたしの顔を両手で挟み、ぐいぐいと押す。やめて、かなりブサイクな顔になるから!
「解った! 話す! 話すからやめてぇ」
「うむ」
 頷きながら、突然パッと手を放すもんだから、あたしは勢いで思いっきり机に頭をぶつけた。ゴンッって鈍い音が鳴る。どうでもいいけど、いやよくないけど痛いよ!
「いきなり放さないでよ! いったぁ……」
「あら、ゴメンゴメン」
 謝ってはいるが、どっからどうみても反省の色ナシ。
 はぁ。あたしのまわりって、こんなんばっか。
「それで? 何があったの?」
「歯磨き粉のフタ事件」
「へ?」
「だから、歯磨き粉のフタでケンカしたの」
 さらに詳しい説明をつけたすと、それを聞いてナルちゃんは顔を引きつらせた。
「あんたら……馬鹿じゃないの?」
 放っといてくれ。
「何て低レベルな喧嘩なんだ」
 ごもっとも。返す言葉もございません。
 あたしだって好きでそんな低レベルなケンカしてるわけじゃないんだぃ!
「うー……」
「はぁ。全く進展してないわけね」
「するわけないじゃん。覚える気ないんだもん、アイツ」
「そっちの進展じゃなくて……まぁ、いいか」
 それ以外の進展って、何があるの? ちょっと疑問に思ったけど、何か嫌な予感するから突っ込まないでおく。
 つーかそれどころじゃないし。
 気疲れっていうか、体力もだけど、だいぶ精神的にまいってるし。ホントこのままだと本気でくたばりそうだよ。
「相当疲れてるわね。今日泊まりに行こうか?」
「うー」
 何かもう喋る気力もない。まだ授業すら始まってないのに。これから五限、耐えられるんだろうか。
「明日休みだし、泊まりに行くよ。今晩はあたしが彼の相手しててあげるからさ、まあさはゆっくり寝なよ」
「うぃ」
 頷くと、ポンポンッと頭を撫でられる。
 ホント、君がいてくれてよかったよ。たまに言動が切なくなる時あるけど。
 それでも、今はナルちゃんだけが支えだ。
「それにしても、何か外騒がしくない?」
「う?」
 ナルちゃんが話を切り変えるように、廊下の方へ視線を投げた。そういえば、さっきからガヤガヤと教室の外が煩い。
「何だろね?」
「どうせあれじゃない? 桂木FCの奴らじゃないの? 」
 ナルちゃんはやれやれという風に肩をすくめて見せた。桂木ファンクラブというのは、眉目秀麗、品行方正、おまけに秀才という完璧な三つの要素をかねそろえた、 三年生の桂木 要(カツラギ カナメ)を崇め祀ろうという活動のもとに作られた学校認定の組織である。
「よくやるよね、連中も。あのキザ男のどこがいいんだか」
 台詞からも解るように、ナルちゃんは桂木先輩のことを毛嫌いしているのだ。生理的に受け付けないらしい。
 あたしも正直どうでもいいし、どうやったらFCの子達はあんなに熱くなれるんだろうくらいにしか思ったことない。
 二人そろって、全くのアウトオブ眼中なのだ。
「それにしても、今日はまた一段と黄色い悲鳴があがってるねぇ」
「不快なことこの上ない」
 段々と不機嫌になっていくナルちゃん。相当嫌ってますな、先輩のこと。
「いっそ消えうせろ……」
 ボソリと言ったナルちゃんの台詞に、あたしは背筋が凍った。おいおい、さすがにそれはまずかろう。
 しかし、それを指摘できるはずもなく。だって、怖いもん。あの人庇うとナルちゃんに睨まれるのだ。あたしが途方にくれていると、いきなり教室の扉が開いた。驚いてそっちを向く。
「なっ……」
 入ってきた人物を見て、あたしは卒倒しそうになった。
「あら」
 ナルちゃんの意外そうな声。
 え!? じゃぁ、やっぱりあれは幻覚なんかじゃないの!?
『お。まあさ、はっけーん!!』
 あたしと目が合うなり、そいつはあたしめがけて突進してくると、勢いよくあたしに抱きついてきやがった!
 当然、まわりから喚声が上がる。キャーとかイヤーとか。
 ていうか、あたしがイヤー! だわよ!!
「な、なな……っ、ナイン!?」
 ちょっと待ってよ!
「ちょっ……な、何であんたがここに――――っ!!?」
 あたしの叫び声は、虚しくもまわりの喚声にかき消されてしまったのだった。





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