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序章



 シンッと静まり返る空間。
 辺りは薄闇に包まれている。
 張り詰めるような冷たい空気に、彼は苦しそうに顔を歪めた。
 キンッと、耳鳴りがする。
『失敗は許されないと、言ったはずだが?』
 恐ろしいほど冷え切った声音。
 凛とした、けれど、感情のこもらない女の声。
『まさかあの場で契約するなど……誤算だった』
『誤算? それならば、予測していたことだろう?』
 指摘され、彼はグッと息を詰める。
 確かにそうだ。すでに契約していると思っていたのだから。
 けれど実際はそうではなく、その事実に彼は少し気を緩めてしまったのかもしれない。
『無能な者はいらない。これの意味が、解らないわけではあるまい?』
 女の姿が、闇の中に浮かぶ。
 薄っすらと、溶け出すように形どられたその姿は、まさに妖艶。
 濡れた瞳に、切れ長の鋭い目。
 まるで獲物を狙う鷹のような視線を彼に向け、女は一歩ずつ近づいて来る。
 彼は少しずつ縮まる距離に、恐怖した。ゾクリと背筋が凍る。
『もう一度……もう一度俺にっ』
 チャンスをくれ。そういいかけて、彼はそれを口にすることができなかった。
 瞬間、首を絞められていたからだ。徐々に強く絞められていく息苦しさから逃れるために、彼は抵抗する。
『……この次はない。肝に銘じておくがいい』
 彼の抵抗を受け入れたかのように、女は手の力を緩めた。吐き捨てるように言うと、手を放す。
 男は咽た。
 上手く呼吸ができないのか、息が荒い。
 苦痛に顔を歪めつつ、彼は女に視線を向けた。視線がかちあう。
『私に恥をかかせるな』
 彼は微かに頷く。
 女はそれを認めて、静かにその場から姿を消した。現われたときと同様、闇に溶けるようにして。
 残された男は、それを見届けながら、小さく悪態をついた。





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