×

[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。





1/シレン



 あぁ、今日もいい天気だわ。
 ふふ。何かとっても居心地の悪さを感じるけど、気のせいよね。
『お前、誰のもんに手ぇだしてんの?』
 あたしの頭上から悪魔の声がするけど、これはきっと幻聴よ。
 悪魔こと、ナイン・リトルバー。
 どういうわけか、天使に改心するべくあたしにとりついた悪魔だ。やや流されるように彼と契約してしまったあたしは、何だかよく分かんないけど、この悪魔に気にいられてしまったようなのだ。
 そのおかげで、学校まで追って来て、どうやったのか転入生として潜り込んできたのがつい先日の話。
『まあさは俺のもんなんだよ。だからさ、お前、ウザイ』
 続くナインの声。幻聴なのにやけに鮮明に聞こえるわ。
 あ、もしかしたら夢なのかもしれない。
 そうよ。そうよね?
 こんな、新手の苛めみたいな台詞を吐く奴が、現実にいていいわけない。
 あたしは試しに、あたしに抱きついてるナインの腕をつねってみた。
『痛ってぇ!』
 え、痛いの?
 あたしはナインの反応に首を傾げる。
『お前、いきなり何すんだよ!?』
 やや涙目になりながら、ナインはあたしを睨んだ。
 うふふ。それはこっちの台詞だこの野郎。
 アンタこそ何言ってんの?
 さっき痛いって言ったわよね? てことは、これは現実ってことでしょ?
 認めたくないけど、そうなんでしょ?
 クラスメイトが嬉々としてこの状況を楽しんでいる中、アンタはその期待に応えるかのように堂々とあんな台詞吐いたワケでしょ?
「と、宝永(トミナガ)さん……」
 ナインに威嚇されているクラスメイト、斉藤君が、涙目になりながらあたしにどうにかしてくれ、と視線を投げてくる。ただ単に、提出するプリントを回収すべくあたしに声をかけただけなのに。それだけなのに……
 この悪魔、堂々とクラス全員の前でさっきの台詞を言い放ったのだ!
 ゴメン、斉藤君。あたしにもこの状況はどうにもできない。っていうか、あたしが助けてほしいくらいなわけで。
 っていうか、いつまであたしのこと抱きしめてるつもりなのよ? 俺の所有物だってさり気にみせつけるのやめてくれません!?
 けれど、奴にそんなあたしの心情など伝わるはずもなく、斉藤君を更に威圧するように、睨みを効かせる。
 しかもなぜか奴は、あたしを抱きしめている腕にさらに力を込めた。
 く、苦しいっ。
『俺の言った意味わかんなかった? こいつは俺のもんなんだよ。てめぇは見るのも禁止!』
 はぁぁ!?
 あんた何自己中なこといってんの!?
 ていうか、そろそろあたしの我慢の限界。
 苦しいし恥ずかしいし、何より斉藤君がかわいそうでしょ!?
 もう耐えられず、ついに叫ぼうとした瞬間。
「はいはい。もうそのへんにしときなさい。クラス中の目もあるし、なによりこのままだとまあさが死ぬ」
 ナインを宥めるように肩に手を置き、ナルちゃんが忠告を浴びせた。それでやっとあたしが苦しんでいるのに気づいたナインは、慌てたように腕の力を緩める。
 はぁ。
 やっとまともに息できた。
 ナルちゃん……いつもありがとう!
 ナイスタイミングな君の登場にはいつも助けられるよ〜!
 裏を返せば、ギリギリまで状況を楽しんでて助けてはくれない君の態度に、内心怒りを感じてなんかいないよ!
「だいたい、彼、プリント集めようとしてただけなんだから。嫉妬するのは自由だけど、無関係な人にあたるのは人としては失格よ?」
 やたら、人、というところを強調して、ナルちゃんはにこやかにナインを指導する。
 おぉ、いつもながら見事なお裁き。
 ナルちゃん実は悟りでも開いてるのでは!?
 ちらりとナインを垣間見ると、何とも不機嫌そうな表情を浮かべている。
 納得いかない、という顔。
 腕の力は緩めてくれたけど、未だにあたしを抱きしめたままなのがその証拠だ。っていうかさ、ホント勘弁してくれない?
 最近は抱きつかれるのにも慣れてきたけどさ。そうさ。家にいる時も隙あらば何かと抱きついてくるのだ、コイツは。もう、いちいち反応を返すことも面倒になったあたしは、無視を決め込むことにしたのだが。
 それでもあたし的にはやっぱり苦痛なんだよね、こういうの。
「とりあえず、我慢するところから覚えなさいな」
 本人にしか聞こえないような小声で、言いくるめるように囁くナルちゃん。あたしは近くにいたから聞こえたけど、他の連中には聞こえてはいないだろう。
 ナインは仕方ないといった風に、あたしを解放してくれた。
 なぜ奴がここまで素直にナルちゃんの言葉に従うかというと、ご説明しよう!
 ズバリ、あたしも知らない。
 先日、ナインが学校にもぐりこんできたあの日の晩。おそらく二人の間で何かがあったはずなのだ。
 それから、ナインが嘘みたいにナルちゃんのいうことを聞くようになったから。当然あたしは二人共に尋ねてみたけど、ナルちゃんはもちろん、ナインも口を割らなかった。
 すっごい気になるんですけどね?
 特にナインを手懐かせた方法とか、方法とか、方法とか。しかも、その直後からさらに輪を掛けて、あたしに対するナインの独占欲みたいなものが強くなった気がするんだよね……
 ナルちゃん、あなた一体何をしたの!?
 あたしは恨めしそうにナルちゃんを見つめる。その視線に気づいて、ナルちゃんは一つ頷き、不敵な笑みを浮かべてあたしの頭を撫でた。
「順調、順調」
 なんて、ワケの解らないことを呟きながら。
 あたしはそれに、ただ首を傾げることしかできなかった。





BACK   TOP   NEXT