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9/ナヤミ



「だぁれだぁぁぁ?」
 ぼんやりと玄関へ向かう階段をおりていたあたしに、突然後ろから声がかけられた。その声の主はにゅっと後方から手を伸ばし、あたしの顔を掴んで揺する。
「ふわっ!? な、ナルちゃん!? いきなりなにすんの!」
 がくがくと揺れる頭。声の主であるナルちゃんが、これでもかというくらいにあたしの頭を上下させる。やば、何か酔ってきた……
「何って、頭のエクササイズ? あんた最近妙に考え込んでるじゃない? だから少―し頭を柔らかくしてあげようと思って」
 軽い調子で言いながら、ナルちゃんはあたしの頭から手を離す。揺れが収まってホッと胸をなでおろしたのも束の間、彼女の発言に冷やりとする。
「え、えーっと……あたしそんな、考え込んでなんかない、よ? き、気のせいじゃない?」
 さすがナルちゃん、よく見てるなぁ。一応心配かけたくないし、否定してみるものの、全く通用してない。小さくため息をついたナルちゃんは、あたしの肩に手を置くと憐れな者でも見るような眼差しを向けてきた。
「まあさ……あんたって、ホンッとに嘘が下手ね。ナインは騙せても、このあたしを騙そうなんて三十と五年早いわよ?」
「何故三十五年? 微妙に数字がリアルで嫌なんだけど」
「細かいことは気にしないの。で? 何か悩みがあるんじゃないの? どうせナインのことでしょうけど」
 う……この単刀直入でしかも正確にあたしが抱えている問題を突いてくるナルちゃんが憎い。
「な、ないよ。悩みなんて。あっ、強いて言えば今日の今晩のおひゃふはぁ〜」
 誤魔化そうとした言葉の途中で頬を引っ張られ、何を言ってるかわからなくなってしまった。しかも手加減なしに引っ張られて痛いんですけど!
はひふんほなにすんのー! ははひへはなして〜!!」
「あたしに嘘は通用しないって、言ったばかりなの忘れた? 見え透いた誤魔化し方するんじゃないの。ほら、言って御覧なさい。ナインには黙っててあげるから」
 パッと手が離れる。ナルちゃんの台詞に、あたしの心臓が跳ねた。
「だ、だから何でそこでナインがでてくるの!?」
 名前を聞いただけなのに、早鐘を打つあたしの心臓。まずい、寿命がどんどん縮まっていくー!
「気になってたんだけどさ……ぶっちゃけどこまでいったの?」
「は!?」
「ナインに謝りに行った後よ。鍵のかけられた密室で、二人で何やってたの?」
「な!?」
 な、何でそんなこと知ってるの!? 何で鍵かけたとか知ってんの!
「このナル様にかかれば、君達二人の行動を把握するなんてこと、盗聴するよりも容易いのよ」
 ふふん、と誇らしげに言って見せてるけど、結局盗み聞きしてたってこと? 隣のあたしの部屋から? もしかして、筒抜け状態ってやつ……?
「で、最近あんたはナインに対してドキドキしちゃうわけでしょ? その原因がわかんなくて悩んでる、と」
「ど、ドキドキじゃないもん! ちょ、ちょっと胸がざわざわするというか、落ち着かないというか、ちょっと緊張しちゃうだけだもん!!」
 ここ最近おかしいのだ。まともにナインの顔見れないし、話しててもえらく緊張するというか……今までこんなことなかったから、余計にどうしたらいいのか解らない。
「あーはいはい。じゃぁ、まあさはそのちょっと胸がざわざわして落ち着かなくて何でナインに対して緊張しちゃうのかその理由がわかんなくて悩んでる、と。これでいい?」
「う、うん」
 頷くと、途端にナルちゃんは優しい笑みを浮かべた。その慈しむような微笑みはやっぱりいつ見ても綺麗で、あたしは思わずごくりと喉を鳴らす。知らぬ間に身構えていた。
「まあさ」
「な、何?」
「あたしはそうなった理由を知ってる」
「え? ホント? 何でか解るの?」
「ええ、解る。でも、それはまあさ自身が答えを見つけないとダメだから、あたしからは教えられない」
 言いながら、ナルちゃんの手があたしの頬に触れた。しっかりと両手であたしの顔をはさみ、まっすぐな視線を向けてくる。
「でもその理由はまだ芽生えたばかりで、とても小さくて、気づくまでにはもっと時間がかかると思う。もっともっとまあさの中で大きく育つまで、その答えはもしかしたら見つからないかもしれない。悩んで苦しんで、辛い思いもするかもしれない。でもきっと、必ず気づける時が来るから」
 言い聞かせるような口調。大事なことを伝えようとしているのが解るから、あたしは素直に頷いた。
「大丈夫。安心して、悩み続けなさい。あんたのその症状は、誰にだってありえることだからね。でも良かったわー。そうかそうか、やっとまあさも……うんうん。これでこそ裏で手をまわしてた甲斐があったというものよね」
「へ?」
 何か前半やたらと真面目だったのに、後半のその台詞は何ですか?
 手をまわしてたって、何!?
「ちょ、それどういう意味!? ナルちゃん!?」
 ナルちゃんは答えず、さっさと階段をおりて靴箱の並ぶ玄関まで歩いて行ってしまう。あたしはその後ろ姿を追いながら叫ぶ。
『お、アサちゃんめっけ!』
 ナルちゃんを追いかけて靴箱まで行くと、突然迫ってきた人物に、あたしは思わず動きを止めた。
「えっ、あ、アリエス!? 何で学校に……っ」
 そこには、先日掌握した悪魔、アリエスの姿があった。片手を上げながら、ニコリと笑みを浮かべている。いや、そんなフレンドリーな態度でナチュラルに接せられても、ていうか家から出ちゃダメだって言っておいたのに、どいつもこいつも悪魔は言うことなんて聞きやしない。
『何でって、迎えにきたんだよ。この時間に終わるって聞いてたからさ』
 あたしの頭をポンポン叩きながら、嬉しそうな笑みを浮かべるアリエス。もう一人この同居人が増えてからというもの、いっそう家の中が賑やかになった最近。やたらと回りついてくるアリエスに、やたらと機嫌の悪いナイン。そんな二人に翻弄されるあたし。特に今はナインの扱をどうしたらいいのか解らなくて困り果てていた。
「……わざわざ迎えになんか来てくれなくても良かったのに」
 誰のせいでこんな現状になってると思ってるんだ。まぁ、もとはといえばあたしが勢いで掌握しちゃったからなんだけど、何かムカつくからワザと冷たく言ってみる。
『相変わらず冷たいなぁ、アサちゃん。でもそういう所が好きだ』
 全然堪えちゃいねぇ……
「そりゃどうも。っていうか、時間とか誰から聞いたの」
『え? そりゃ、ナルから。今日は来ても大丈夫だからって』
 アリエスの横で楽しそうな笑みを浮かべているナルちゃんと目が合い、あたしは肩を落とした。聞いたあたしが馬鹿だった。そうだよね、教える人なんてナルちゃんくらいしかいないもんね。ていうか、来ても大丈夫な日ってどういう基準なの。
『それよか、あいつはどうしたんだ?』
「え? えーっと、誰のこと?」
 アリエスの問いに、あたしはとぼけて見せる。誰のことを言っているのかは解っているけど、まさかまいてきたとは言えまい。
『誰って……』
「あ、あー! ナインね。さぁ? そういえば姿がないわね」
 どうしたんだろうね、なんて空笑い。だって! 今まともに話なんかできないんだもん! 教室でだって徹底して奴から距離をおいて、あんまり話さないようにしてたんだから。
『まぁ、いないんだったら好都合。放っといて帰ろうぜ?』
 アリエスがやったとばかりに指を鳴らし、あたしの背を押す。あたしは内心ホッとしつつ、流されるまま歩を進めた。ナルちゃんは終始笑みを貼り付けたままで、続くように横に並んで玄関を出る。
「それにしてもホント、ナインってばどこ行っちゃったのかしらね?」
「さ、さぁ?」
 にんまりと嫌な笑みを浮かべ、ナルちゃんがあたしの頬を突付く。とぼけてはみたものの、ばれてる。意識的にナインを避けてるのが絶対ばれてる。
「ねぇ、どこ行ったと思う? アリエス」
『俺に話をふられてもなぁ』
 さして興味もなさそうにアリエスが答える。っていうかナルちゃん! なんでその話題引っ張るんですか! わざとでしょ! 絶対わざとでしょ!?
「あっ! ナルカお姉ちゃん!!」
 泣きそうになるのを堪えながら校門を出たところで、突然甲高い声がかけられた。振り返ると、嬉々とした表情を浮かべた人物が近寄ってくる。名前を呼ばれた本人であるナルちゃんは、驚いたように目を丸くした。
「え……あ、夜(ヨル)!?」
 駆け寄ってきたその人物は、そのままの勢いでナルちゃんに抱きついた。





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