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序章



 気配を殺し、近づくそれ。
 ゆっくりと伸ばされた手は、滑らかな髪を梳いた。
『さっきねぇ、見てきたよ』
 後ろを振り返った女に、少年は極上の笑みを向ける。それは醜悪で、けれどだからこそ、とても美しいものに見えた。
 女は我が子を愛でるような眼差しで、少年の頭を撫でる。彼はされるがまま、抵抗も反応も見せない。
『確かに、フェアウェルには荷が重かったかもしれないね。空気が違うんだ。人間のものとは思えないほどの気配を纏ってたよ。あれでは自ら悪魔を寄せ付けているようなもの。でも、一番の理由は僕が流した噂のおかげかな?』
 クスクスと笑みを零し、少年はおかしそうに声を上げた。
『"漆黒の髪に紫の瞳を持った魔伽がいる。でも、その悪魔は改封魔になり、パートナーの人間は魔我鎖の称号を得たらしい"なんて、最高のネタじゃない。悪魔達は必ず確かめに行くはずだよ。まさか、本当に魔伽が存在していたのか、ってね』
『……酔狂なことをする。お前の趣味は未だに理解できない』
『ふふ。狂という名の芸術を愛でているだけだよ。美しい物ほど壊したくなるでしょ? ぐちゃぐちゃにしてやりたくなるんだよ』
 冷笑を浮かべ、少年は女を見上げた。見かけは幼い少年であるのにもかかわらず、関係は対等であるかのように見える。彼はふっと目を細めた。
『そういえば、魔我鎖の称号を得た少女だけど。彼女、その力を開花させたよ。悪魔を一人、掌握しちゃった。名前は確か……アリエス・レイスター、だっけかな』
『アリエス……? 知らぬ名だな』
『およそ下級悪魔なんでしょ。たかが下級悪魔一匹、味方に付いたくらいどうってことないけど。利用価値はあるかもしれないけどね。それに、問題は少女の方だ。今まで魔我鎖の称号を得た人間なんていない。どんな潜在能力が隠れているのか計り知れないから、流石に迂闊に近づけない。だからさ、僕ってばいいこと思いついちゃったんだよね』
『遊びたいようだな』
『解ってくれる? ねぇ、欲しいのは『力』だけなんでしょ? だったら、少女の方は僕が貰ってもいい?』
『……いいだろう。ただし』
 女は途端、冷たい光をその瞳に宿し、射抜くような眼差しを少年に向ける。
『私をがっかりさせるな、クォーラル』
『解ってるよ。使えない誰かさんみたく、馬鹿なヘマはしない』
 ニッコリと笑みを浮かべ、クォーラルと呼ばれた少年は頷く。もう一度女の髪を梳くと、背を向けた。
『さぁ、楽しいゲームの始まりだよ』





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