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1/ホンキ



『うおっ!? やべ、死ぬ――――ッ!』
「その隙もらったぁッ!!」
 銃を連発する効果音が鳴り響く。テレビの中で繰り広げられる世界。
 LOSSと表示された画面にしょんぼりと肩を落とし、ナインはやつあたりの如くコントロールを床に投げつけた。
「あっ、もー、ナインお兄ちゃん、壊れるからやめてよね」
 隣で勝利を勝ちとった夜が、頬を膨らませてナインに指摘する。これで夜は通算、26勝1敗となったわけだ。
『うるせー! 何で勝てねぇんだ畜生―!』
 ガキは嫌いだとか何だとか言っていたわりには、楽しそうに一緒にゲームをやってたりするあたり、変わり身が早いというか。しかも、相手をしてあげていると言うよりは、むしろしてもらっている感は否めない。
「お兄ちゃん弱すぎ。僕飽きちゃったよ」
『ダメだ! もう一回だ!』
「えー? どうせまた負けるくせにぃ」
『今度は勝つ! 絶対だっ。この俺様がまけるはずがない!』
 そう言いながら26敗もしているのはどこの誰なのよ。全く、これじゃどっちがお兄ちゃんなんだかわからない。
『何だかんだいって仲いいな、あの二人』
「うん」
 リビングで延々とテレビゲームをやっている二人を観戦しながら、あたしの向かい側に腰を降ろしてお茶をすすっているアリエスに頷いて見せる。
 つい先週、ナルちゃんの従兄弟にあたる夜に会ってから、彼は休みになるとナルちゃんと一緒に遊びにくるようになった。ちょうど今夏休みにはいったこともあって、週末は決まってお泊りだ。あたしとしては夜が遊びに来るのは大歓迎。
 もともと子ども大好きだし、夜がナインの相手してくれてる間はアリエスとの喧嘩も起こらないし、あたしにも突っかかってこないから変に意識しないでいいし。そのおかげで、ここ最近平和が続いてるのだ。まさに救世主、夜。
「っていうか、そろそろやめなさいよ、二人とも」
 電気代だってバカにならないんだから。
 毎週のように朝から晩までゲームやりっぱなしなんて、勘弁して欲しい。これであたし達も学校が夏休みに入ったら、ナインなんか毎日ゲーム詰めなんじゃなかろうか。
「お兄ちゃん、まあさお姉ちゃんがやめろって」
『何だよまあさー、まだいいだろ?』
 うっ。こっちを向くなこっちを。ただでさえ目が合うと変に意識してしまうのに。あたしは怒ったように見せかけてさりげなく視線を外す。
「ダメ。そろそろナルちゃんがお風呂から上がるから、そしたら夜を入れてもう寝かさないと」
 いくら夏休みとはいえ、不規則な生活リズムをつくっては身体に毒だ。小学二年生の子どもが遅くまで起きていると発育にもよくないんだから。
『ちぇっ』
 渋々といった感じでゲーム機本体の電源を切り、それと同時にブラウン管に映っていた画面が消えた。次いでテレビの電源も切る。
「んー、いいお湯だった」
 と、ちょうどいいタイミングで、ナルちゃんがお風呂から戻ってきた。
「夜、お風呂入っておいで」
「うんっ」
 ゲーム機を片付けていた夜は、頷いて部屋を出て行こうとする。が、ドアの前で立ち止まり、こちらを振り返った。
「どうしたの?」
「あ、あのねっ。まあさお姉ちゃん、一緒に入ろ?」
 突然の言葉に、あたしはきょとんとする。ナインとアリエスは瞬間、同時に夜を凝視し、ナルちゃんはなぜか面白そうな笑みを浮かべていた。
「ダメ?」
 恥ずかしそうに、けれど心配そうに、夜は上目遣いで小首を傾げる。な、何だこの可愛い生き物はっ!? そんな顔されて断れるわけないじゃない。っていうかもとより断るわけないじゃん!
「うん、いいよ」
「ホント!? わーい!」
 ニッコリ笑って見せると、夜は嬉しそうに抱き付いてきた。もぉー、ホントに可愛すぎ。
『ヨル! 折角だからアリエスお兄ちゃんも一緒に……――――――っ!』
『何言ったんだてめぇは』
 アリエスの言葉を遮るように足蹴りを喰らわせたナイン。その衝撃で大げさに倒れ込むアリエス。
『ってぇな! 何すんだよ!』
『お前こそふざけたことぬかしてんじゃねぇっ』
『ふざけてない。大真面目だ』
『余計性質が悪いんだよ!』
 ゲシゲシと倒れたアリエスを踏みつけるナイン。あぁ、ちょっとやりすぎじゃないの?
「もー! お兄ちゃん達やめてよ! それだったら、皆で入ったらいいよ!」
『『あ?』』
「へ?」
「それは名案ね、夜」
 懸命な仲裁ではあるが、その案はちょっと……っていうかナルちゃん、本気で怒るよ? その台詞は。
『ヨルー! お前いい子だなぁ。その意見賛成!』
『だから、何を血迷ったことぬかしてんだよてめぇは。本気で息の根止めてやろうか?』
 鈍い音をたてながら、殺気だったナインがアリエスの背中を踏みつける。っていうか、いつになくナインがマジ切れしてるんだけど……
『それはちょっと。っていうか、ホントは一緒に入りたいくせにー』
『あん? お前と一緒にするなっ』
『いいっていいって。解ってるって。やっぱお前も男だな』
 にんまりと嫌な笑みを浮かべるアリエス。そんな体勢で挑発しても自らの首を絞めるだけなんじゃ……
『違うつってんだろ!?』
『ムキになっちゃって、あっやしい』
 その瞬間、プチン、と何かが切れる音を確かに聞いた。あたしは嫌な予感を感じ取り、夜を抱きかかえて部屋をでる。
「まあさお姉ちゃん? お兄ちゃん達放っといていいの?」
 風呂場に向かう廊下で、夜が首を傾げつつ心配そうな表情を浮かべた。
「いいのいいの。それより夜、ちょっとの間耳塞いどいた方がいいかも」
 何で? と小首を傾げつつ、夜が素直に耳を塞いだ途端、

『今日こそくたばれッ! 今すぐ息の根止めてやらあぁァッ!!』

 怒号するナインの後に、何とも悲痛な叫び声がリビングから響き渡ったのは、言うまでもない。





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