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秘密の強談
   (※第二魔 壱より)


 彼女の名は、遊間 生夏(アスマ ナルカ)。
 まあさを妹のようにこよなく愛し、彼女で遊ぶことを生きがいとするまあさの親友でもある。
 そんな彼女は、今まさにまあさに関する壮大な計画を実行しつつあった。
「ところでナイン」
 金曜日の午後。夕飯を食べ終え、一息ついた今の時刻は、戌の刻を刻もうとしている。
 明日が休日ということもあって、彼女はまあさの家に泊まりにきていた。その家主であるまあさをお風呂に入るように促し、この瞬間を待っていたとでもいわんばかりの笑みを浮かべて、生夏はナインに声を掛ける。
『何だよ』
 ソファに沈むように横になっていたナインは、気だるそうに生夏を見上げた。まあさがいなくなると、急に大人しくなる、というよりは退屈でつまらなさそうに、それでいて全てが面倒であるかのような姿勢になる。
 毎回このギャップには呆れを感じつつも、あえてそれには突っ込まず、生夏は表情を崩さぬままソファの向かい側、少しはなれた場所にあるロッキングチェアに腰をおろす。
「あんたに言っておかなきゃと思ってさ」
『忠告なら聞かない』
「まぁ、そう邪険にしないでよ。まあさに関わることよ? 聞きたくないっていうなら、別にいいけど」
 聞く耳持たずといったナインも、まあさ、という名詞にはピクリと反応した。それが解っていて、生夏はまあさの名を口にしたのだが。
 まあさは知らない。彼女がいかに計算高い女であるか。でもそれはまぁ、知らぬが仏という言葉もあるように、知らない方がまあさにとっては倖せだろう。
 生夏は予想通りの反応に意味深な笑みを浮かべた。
「知ってる?」
『何を』
「まあさって実は、結構発育がいいのよね」
『は?』
「身長は低いけど、体つきは女として申し分ないわけよ。ていうか、あの顔でコンパクトサイズだから余計に男にはウケるわけよ」
『あ?』
 さっぱり意味が解らない、という表情を浮かべるナインに、生夏は真摯な顔を貼り付けた。
「つまり何がいいたかってぇと、とりあえず学校では気をつけなさいよってこと」
 いくらか声のトーンを落として生夏が告げる。ナインはそんな彼女の態度の変貌に、無意識に上体を起こすと、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「まあさって、実は結構モテるのよ」
「モテる?」
「そう。異性から人気があるってこと。ってことは、ナイン以外の男に玩具にされる確率が高いってことでもあるわけよ」
 大仰な科白で、生夏はナインを洗脳すべく、平然と誤った知識を埋め込み、煽る。
「気をつけないと、まあさを取られちゃうわよ? 他の男がベタベタとあの子に触る様を想像して御覧なさいな。どう?」
 言われて、ナインはしばし黙り込むと、徐に柳眉を寄せた。不機嫌な表情を作る。
『……面白くねぇな』
 予想通りの反応。生夏はほくそえむ。ここまでくれば、あと一押しだ。
「だったら、そういう奴等からまあさをしっかり守ってやらなくちゃ」
『どうやって?』
 その問いに、生夏は極上の笑みを浮かべる。
「そうねぇ。教えてあげてもいいけど……」
 あからさまに焦らし、生夏は言葉を切った。ナインの出方を伺い、楽しんでいる。
『何が目的だ』
 生夏が何かを催告しているということは、ナインにも解った。彼女がただでは動かないということも。
「んー? 別に目的なんてないけどさ。あたしは別に構わないわけよ、まあさが他の男に取られちゃっても」
『それはっ』
 俺が困る、と続けたかったのだろうが、ナインはそれで合点がいったようにハッと口を噤んだ。
「うん。ナインは困るだろうなぁ、と思って。だから、協力してあげてもいいんだけどさ」
 にんまりと笑う生夏。
 ナインは彼女の意図を瞬時に理解し、吐息する。つまり、立場の問題を指摘したかったのだ、生夏は。
 教えてやってもいいけど、そうすると、立場的にはあたしの方が上になるわよ、と。
 簡単にいってしまえば、あたしの言葉に従わないと、教えてあげないよってことだ。逆にそれさえ了承すれば、いくらでもあんたの味方になってやる、ということでもある。
 ナインはしばし考え込んだ。人間に従わされるなんて冗談じゃない。だが、生夏の助けがなければ男どもからまあさを守る術が解らないのも事実だ。
 まあさが自分以外の男に玩具にされるのは我慢がならない。
「一つ言っておくけどね、これはアンタのためなんだからね? いくらあたしでも意味もなく理不尽なことは言わないわよ。ただ、学校でのおいたは避けてもらいたいからね。 そこら辺の忠告は聞いてもらう、というのがまぁ、交換条件ってとこかな。でもナインにとっては好条件だと思うんだけど?」
 もちろん、生夏は最後の一押しも忘れない。
 ナインは真っ直ぐに生夏を見据えた。短い沈黙が漂う。だがしばらくして、ナインがニヤリと笑んだ。了解の合図。
 その答えで生夏は悦楽に浸る。表面上はナインのためとか言ってはいるが、それもどこまでが本意なのか解ったものではない。
「それじゃぁ、まず一つ、アドバイスしておくわ。男子が言い寄ってきたら、まあさは俺のものだ、って、自己主張してみなさい。大概の男はそれで引くから」
 まるでこの時の為に用意されたかのような台詞を、生夏は躊躇いなくナインに吹き込む。
 この手のことには無知とも言えるナインは、あっさりとそれを受けとると、記憶にしっかりととどめた。やけに納得している。
 生夏はそれを眺めながら、満足そうに一つ頷いた。
 やはり色恋沙汰は不可欠であろう。まあさもナインもこの手のことには疎い傾向にあるのだから尚更。

 こうして、遊間 生夏の策略が始まった。
 利己主義放縦悪魔を、いとも簡単に手懐けて。
 ある意味、彼女が一番最強なのかもしれない……





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