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フェアウェルの礼儀
   (※第一魔 弐より)


 ある一軒家の玄関の前で、彼、フェアウェルは悩んでいた。
 ナインの魔力の気配を辿り、ここまできたのはいいのだが……
『……どうすればいいんだ』
 硬く閉ざされた扉。
 鍵はかかっていないようだが、勝手に中に進入してもいいものだろうか?
 彼は場違いにも必死に頭を悩ませていた。
 悪役であるなら、扉の一枚くらい蹴破って登場するのがセオリーだろう。
 だが、意外にも変なところ真面目な彼に、そんな思考は浮かばなかった。蹴破るのはやりすぎにしても、黙って進入するぐらいはありだろうと突っ込みたくもなるが、不法侵入は不味いな、となぜか人間の法をいちいち心配してるあたり、彼の思考はすでにまともではない。
 いや、人間側からいわせれば、最も正常な判断ではなるのだが。
『どうすれば呼び出せる』
 一番確実に家主を呼び出せる方法。
 しばらく逡巡してから、フェアウェルはふとあるものに気づく。
 無意識に視線が捉えたそれに、彼はゴクリと喉を鳴らした。
 それは、一つのボタン。
 音符のマークがついた、お馴染みの呼び鈴である。
 もちろん、フェアウェルにそれが何であるか理解されてはいない。ただ、ボタンがあれば押してみたくなるものである。
 彼は恐る恐る指を近づけていく。

 ポチ

 瞬間、扉の向こうでベルが鳴った。フェアウェルは息を呑む。いいようもない高揚感が彼を襲った。押してしまったという罪悪感と、満足感。
 二つの感情が混ざりあい、けれど震え立つ幸福感に、無意識に表情が緩んでいることに彼は気づいていない。
 それは苦悩と葛藤の末に得た、一筋の悦びであった……

 もちろん、こんな事情の末に押されたチャイムだったなどとは、誰も知る由もない。





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