それは、白銀の世界……

 目が覚めて外の世界を見たときの、あの焦がれるような憧憬が忘れられない。
 穢れ一つ無く、世界が白に染まるその光景が脳裏に焼きつく。その瞬間だけは、寒さも感じられない。
 全ての感覚が、その景色に奪われて。飲み込まれて。
 何でか、泣きたくなった。

 世界はこんなにも美しかっただろうか
 世界はこんなにも静かだっただろうか

 雲の上からでは決して見えない。
 海の中からでは決して見えない。
 ああ、翼も鰭もいらないから、私は足が欲しい。そう思った。
 この白い世界の中で、生きてゆきたい。
 だって世界は、こんなにも綺麗なのだから。
 躊躇いも無く、外へと飛び出した。
 閉ざされた空間の中から出た先のその世界は、酷く眩しく、眩暈がするほどに白かった。
 今まで姿を持たなかった私は、やがて肉体を持ち、意思を持ち、声を発し、生きることの意味を知る。
 腕を伸ばし、身体を伸ばし、凍るような空気を吸い込むと、身体がシンッと冴えわたる。
 ああ、どうしてこんなにも気持ちがいいのだろう。
 日の光が、こんなにも眩しいだなんて知らなかった。
 外の世界が、こんなにも広いだなんて知らなかった。
 広がる世界はどこまでも白く、果てが無いように見えた。
 どこまでも、どこまでも。
 けれどそれはただの幻想で、日が経つにつれ、辺りから白が削り取られていく。
 溶けたものが、大地へと沈んで。

 私の身体が霞んでいく

 自分は、この白の世界の中でしか生きられないのだと知る。
 やっと生きることの喜びを知ることができたのに、それは早すぎる時間。
 夢はあっけなく終わりを告げる。
 溶けてしまう。
 消えてしまう。
 私は肉体を失い、再び全てを忘れる。
 あの白の世界に焦がれる想いだけが残る。
 想い続けながら、また眠りにつく。長い、長い眠りに。

 再び訪れる、白の世界まで……





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