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 お茶の注がれたカップをロコから受け取り、ディオールは一口すする。二人はテラスに出て、優雅なひと時を過ごしていた。
 相変わらず視界に映るのは荒んだ町の光景と、その先に広がる莫大な砂漠だけ。東の大陸は、少しずつ死を孕み、人々を脅かす。
「もう少し屋敷の周りに緑を植えればいいのに」
 微かに残る、屋敷の周りに植えられた木々。それも殆どの葉がしな垂れ、今にも枯れてしまいそうなほど弱々しいものだ。
「土に栄養分がないんだよ。あれらも時期に枯れるだろうね」
 土は乾き、とても植物や野菜が育つものではなかった。
「この大地を生き返らせるには、莫大な労力と時間がかかる。今のこの大陸の人たちにそれをやるだけの余裕はないし、他大陸の人間も干渉を嫌うからね。時期にここは全てが滅びる……」
 後数十年もすれば、おそらくこの大陸は終わりを迎える。けれど、この屋敷の住人が同じように滅ぶことはないだろう。
 永遠にも近い時間を生きるドーマとドール。外部からの干渉では死ねない両方は、ただ滅び逝くものを見送ることしかできない。
 それは異質であり、普通の人間から見れば怪奇なことだ。
「でも、そうなる前にドールを完成させたんだからよかったよ。そうでなければ、本当に独りになってしまうからね、凪は」
 他人の干渉を許さず、他人に関心を持たない凪。
 ただでさえ孤独を好む彼は、放っておくと永遠に人と交わろうとはしない。例え大陸が壊滅したとしても、それは彼にとって最早どうでもいいことなのだ。それほどまでに、凪は人間に関心を持たない。
「……ずっと、気になっていたことがあるのだけれど」
 ディオールの言葉に、難しい表情を浮かべたロコが呟いた。彼はその疑問を待つべく視線を幼女に向ける。
「なぜ、冴だったの?」
「え?」
「なぜ、他人に関心を見せない凪・リラーゼが、冴をドールにしたの? 今まで一度もドールを創ったことなどなかったのに、なぜ今更……」
 ドールを完成させたのか。
 何で冴だったのか。
 それは偶然だったのか、気まぐれだったのか。
 どちらにしても、あの凪がそんな理由でドールを完成させるなど考えられない。
「ワタクシ、冴には『ドーマは遊び半分や思い付きでドールを創ったりしない。人の命を軽視することなんてない』みたいなことを言ったけれど、自信がないの。だって、北のドーマは……」
 そこで言いにくそうに言葉を止め、ロコは苦渋する。
「北のドーマは、あまりにも人の命を軽視しすぎているもの。凪・リラーゼがそうではないとは、言い切れないわ」
「ロコ、凪は違うよ。それは僕が保障する。ロコが冴ちゃんに言ったことは間違いなんかじゃない。彼は人の命を軽視するような人間じゃない。例え、どれほど人に無関心であっても」
 どんなに冷酷でも。
 彼は人の命の重さを知っている。失う痛みを知っている。
「でも、嫌な予感がするのよ。とても……何かとても恐ろしいことが起こるような、嫌な感じがするの」
 表情を歪め、ロコはディオールの膝に手を添える。そのまま彼を見上げ、その深い蒼の瞳を見つめた。
「ロコ……」
 ディオールの瞳が揺れる。
「ディオは、知っているのじゃない? 理由を」
 何だかんだいって、割と一緒にいるところを見ている。一方的にディオールが話しているだけのようにも見えるが、一応会話も成立しているような場面を、何度かロコは目撃していた。
 だからこそ、今回のことも何か知っているのではないかと尋ねてみたのだが……
「……いや、僕は何も」
 ディオールの答えは、ロコの肩を落とさせるものだった。
「そう。ディオでも知らないのなら、誰にも真意は解らないわね」
「ごめん」
「ディオが謝ることじゃないわ」
 俯いて表情を歪めたディオールに微笑みながら、ロコは彼の手をとった。と同時に、部屋の扉がノックされる。
 その突然の訪問に驚き慌てて返事を返すと、勢いよく扉が開かれた。
「ディオっ、ロコ……ッ」
 扉を開け放ったのは、冴。いつもと違う様子の彼女に、二人はハッと身構える。
「冴? 何かあったの?」
 すかさずロコが尋ね、息を切らせた冴がコクリと頷いた。
「凪がっ……」
「まさか容態が悪くなったとか?」
 彼女の言葉に続くように、ディオールが表情を険しいものに変えて立ち上がる。しかし冴は、その問いには首を横にふった。
「違うの……凪が、目を覚ましたの」
 告げながら表情を和らげる彼女に、二人は目を見張る。
「凪が?」
「そう、さっき……目を覚まして。だから、もう大丈夫」
 微笑むも、二人の姿を見たら余計に安心してしまい、涙が零れた。
「冴?」
 ロコが心配そうに顔を覗き込む。冴は泣き笑いを浮かべ、彼女をそっと抱きしめた。
「もう、平気」
 もう、凪は大丈夫。死なないとは聞いていても、やっぱりどこか不安だった。でも目を覚ましてくれたから、もう大丈夫。
「冴……」
 そんな冴につられて、ロコの瞳にも涙が浮かぶ。ディオールはそんな二人を微笑ましく見守っていた。
「良かったわ、本当に」
 さっと涙を拭い、ロコは満面の笑みを浮かべて冴を見上げる。
「それじゃぁ、早速僕達も様子を見に行こうか」
「そうね」
 ロコは軽く手を叩き、冴もコクリと頷いた。
「あ、そうだ冴ちゃん。悪いけどオルビス達を呼んで来てくれるかな?」
 言われ、冴はハッとする。
 医師であるオルビス。このタイミングで彼の名が出たということは、おそらくディオール達もオルビスが医師だということは知っているのだ。
 呼びに行くのは傷の具合等を見てもらうためだろう。先ほど会った時戎夜は伝えておくと言っていたけれど、やはり自分からも一言伝えておくべきだと思っていたから丁度いい。冴はしばし考えてから頷き、身を翻した。
「先に行ってて」
「うん。じゃぁ、向こうで待ってるよ」
 その言葉に冴は微笑んで見せ、そのまま部屋を後にした。扉の向こうへその姿が消えた途端、ロコの笑みが崩れる。
「……ねぇ、ディオ?」
 扉に視線を向けたまま、ロコは自分のドーマの名を呼んだ。彼はその呼びかけに視線を落とす。
「なんだい?」
「凪・リラーゼは、冴を傷つけたりしないわよね……?」
 不安そうな顔。
 もし、凪が冴を傷つけるようなことがあれば、きっとロコは彼を許すことはできないだろう。あの笑みを彼女から奪うことを、許せるはずはない。
 ロコは同意を求めるように、ディオールを見上げる。
「……」
 けれど、彼がその問いに答えることはなかった。



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